DP-5Vがやってきた!
 
2011_07_20 (C)Y.Utsunomia

 ウクライナの商社と幾度かの取引ができて、以前からのほんの少しの興味も手伝い、旧ソビエト軍用のレントゲン・メーター(ガイガーカウンター)を購入してみた。ワークショップを行うのにも、実機製品があると何かと説得力があろうかとも、またSBM-20の実際の動作実例を、なるべくオリジナルに近い状態で知りたいという願望もあった。

 この機種に関して、すでに輸入の実績のある人の記述を読むと、相当な割合で故障しているというので、多少の不安はあったが、内容的に興味深いことと、キーデバイスであるガイガーミュラー管は豊富に在庫ができたことから、価格が比較的安いこともあり、気付いたときには発注済みであった。7月3日に到着したが、サイト・コンテンツの執筆や試作が忙しく、動作確認や校正は後回しになってしまうが、とりあえず「ナデージア」と命名す。

 ナデージアは重量が3.2kgもあり、付属のハードケースはさらに重く総重量8.2kgにもなるため、ケースは除外して送付してもらった。

英語版マニュアルに記載の主要な諸元を記載する(不適切な翻訳あり)

検出管:SBM-20(低線量3レンジ)、CI-3BG(全6レンジ)

表示出力:メーター表示(単位:レントゲン毎時)とヘッドホンによる音出力 
    (ただし、音出力は最大入力レンジでは停止)

測定エネルギー範囲:ツリウム170 0.084MeV から コバルト60 1.25MeV

測定レンジ6 0.05mR/h ~ 200R/h (0.5μSv/h ~ 2Sv/h 1mR=10μSvとして換算)
     レンジについては巻末に表あり。


測定誤差:6レンジすべてで、真値に対して±30%(ただし温度20±5℃、相対湿度65±15%、大気圧100±4kPa)

測定時間:セルフ・ウォーミングアップ、1分

動作可能範囲
 動作空間湿度:65±15% at 動作温度:-50~+50℃
 動作空間湿度:95±3%  at 動作温度:40±2℃
 耐雨性   :5±2mm/min
 耐水深度(プローブ):最大0.5m
 耐粉塵性  :あり

γ線に対する表示誤差:±40%以下

電離放射に対する表示誤差:1.25MeV ±60%以下  0.66MeV ±70%以下  0.084MeV ±90%以下

温度(10℃毎)の表示誤差:20~50℃ ±10%以下  -50~20℃ ±5%以下

表示逆転現象:300R/h以下・・レンジ1~3   50R/h以下・・レンジ4~6

表示安定時間:45秒(測定に要する時間)

電源:A336型電池3本 使用時間:最小70時間(メーター照明OFF、新しい電池または貯蔵1ヶ月以内のもの)

保存耐久性
 振動:10~80Hzの振動加速度30m/s^2
 耐爆:毎分80~120サイクル150m/s^2
 搬送:毎分80~120サイクル1000m/s^2 (参考:980m/s^2=100G)
 耐落下:500mm
 温度:+60~-50℃

寸法
 本体 82×134×163mm以下
 プローブ φ50×164mm以下
 プローブ延長棒 560~910mm
 ケースサイズ 4691×132×277mm

重量
 本体 3.2kg(電池含む)
 8.2kg(ケース含)
 プローブ 625g

付属品:本体、プローブ延長棒、ヘッドホン、取り扱い説明書、整備記録帳、プローブ用防汚カバー10枚、
    車両用バッテリーアダプター

 この機種は何度かマイナーチェンジしているようで、回路図も何種類かあるようだ。主要な変更箇所はメーターまわりとDC-DCコンバーター低圧側だが、細かな手直し程度で、基本的な部分は共通。また、回路図に掲載されていない変更箇所もあったが、それは後述。概観的にはガイガー管の納まっているプローブ部分のケース形状が2種類ある。多くのDP5V写真では、プローブ基板は緑色の硬質樹脂に入っていて、ボルト4本で組み立てられているが、私のところへ来たナデージアは、ボルトではなく金属ケースそのものに切られた管ネジで固定され、防水カバーは半透明のポリエチレンと思われる樹脂でできている。製造年から推定すると、ナデージアは前期モデルなのでは。(このテキストでは便宜上「緑プローブ」「全金属プローブ」のように表記)
(* DP-5Vは1985年から1992年まで製造されていた)

 回路図が付属しているが、書式の問題で読み取りにくいので、西側諸国フォーマットで書き直してみた。書式の問題の主なものは図面上方向がマイナスに、下方向がプラスになっていること、低圧側はマイナス接地、高圧側はプラス接地になっていることだが、後者はどうしようもないので、ニュアンスが読めるように配置してみた。(間違いがあればご指摘下さい・・間違いあってもご容赦を)


画像1:DP5V.Viscomの英語版マニュアル掲載のもの



画像2:DP5B


 回路図を読んでみることは、いざ故障というときだけではなく、回路の潜在的な能力や弱点を知ることができ、また自分の設計の参考にもなる。また、説明書だけではよくわからない点も、いくつかは判明する。



○電源マネージメントとスイッチモード▲


 ○印が計測系OFFであるが、メーターの照明は計測回路の電源とは別回路で、電池ボックスの1つだけ離れた位置にある電池が、メーター照明用の電池。このメーター照明回路は、フロントパネルのロータリースイッチとは独立で、照明のON/OFFは測定に影響を及ぼさない。

 メーターの照明用の電池と、測定系の電池の消耗状態も独立で、照明が明るく点くからといって、測定系の電池が消耗していないとはいえない。またロータリースイッチが○になっていても、メーター照明はOFFにはならないので注意。

 ▲のモードは電源電圧、バッテリーの状態を示しているように見えるが、回路図から高電圧のサーボ状態を表示していることがわかる。電池電圧や電池残量を直接表示しているわけではないので、注意。
スイッチを▲にすると、一瞬(1~2秒、間があってそれからメーターが振れるが、高電圧がチャージされるのに、これだけ時間がかかるということのようだ。

 ●(停止)から▲にスイッチを切り替え、発振が始まると電荷はC12に徐々に(正常なら約1秒)蓄えられ、一旦430~450Vまで上昇(しかし、このときにメーターは振れていない)。これは定電圧放電管V4は430~450Vにならなければ放電が始まらないからだ。放電が開始すると、やっとメーターが振れ始める。

 同時に放電が始まるとFETにフィードバックがかかり、発振を抑制。電圧はV4の放電維持電圧(安定電圧:380~400V)付近(厳密にはそれよりも少し高い・・・調整箇所のセッティングによる)に安定する。

 このときにメーターはやっと半分程度まで振れる(しかし、電圧は一瞬定格よりもずいぶん高くなっているため、反応が遅くしてあるこのメーターにしては、すばやく立ち上がる)。

*ガイガー管のプラトー電圧上限は475Vであるが、セットによっては瞬間的にはこれを上回る場合もあるようだ。しかし、そのための▲モードで、このモードでメーターの振れを確認できたときには、電圧は定格になっているので、その後にスイッチを各測定レンジに入れれば、ガイガー管に安全な電圧をかけられることになる。

つまり、▲モード→各測定レンジ、の操作が、起動時のディレーシーケンスになっているわけである。・・・・故に、無秩序にスイッチをガチャガチャ切り替えることは、望ましい操作とは言えない・・・・セットが故障または故障に近い状態のときに、ガチャガチャ操作をすると回復するというレポートをいただいたことがあるが、これが回復の真相かもしれない。 

 また、この高電圧表示や内部の電圧を調べてみると、安定するのにはマニュアルに記述があるように数十秒かかるようで、セルフ・ウォーミングアップ1分というのは、この部分の関与が大きいようだ。表示安定に要する「45秒」は、C6とメーター周りのインピーダンスによる時定数(積分時間)だけではなく、メーターそのものの機械的反応速度が積分的に遅く設定(いずれメーターの中の機構も観察するつもり)してあり、このような積分用途専用のメーターのようだ。
(追記:高電圧の立ち上がりから安定、に関与するのは、これ以外にC12とC10の挙動・・・製造後の年月が長いため・・・も関わりが深く、劣化していた例(=交換)もしばしば見られる)

 またスペックの「測定誤差」にある、30%の根拠は、SBM-20の自然放射能=15CPMなので、15CPM×45秒/60秒=11.25CPMとなり、このときの確度は11.25^-1/2=0.298≒30%と、低線量の場合の数学的確度のことを指すのでは。

 高電圧が発生していないか、所定の電圧(定電圧放電管の動作電圧)に達していない場合は、メーターの指示値も下がるかあるいは振れなくなるが、実に広範囲の電圧入力にわたり高電圧を安定発生できるようで、定格3V電源が1.2Vまで低下しても、電圧表示は低いものの、おおよそ正常に放射線検出できるようだ。

(起動シーケンスに成功したら、その後はメーターの振れが定格の範囲を割る込み、わずかにしか振れていなくても、高電圧側は380Vを割り込まない・・ガイガー管は正常動作(数%の計数率低下はあるかも)できるようだ・・・高電圧にシビアな理由は、DP-5Vがガイガー管を通常のガイガーモードではなく、「ガイガーモード電圧で使用する、比例計数管モード」というキテレツな設計でエネルギー補正を行っていることがあげられる。

 代表的な電源電圧と消費電流の関係を以下に示す。

    BG cal  電圧表示 線量表示
3V  20mA 50mA ○ 65%   正常 
2.4V 23mA 50mA ○ 60%   正常
1.5V 30mA    低下50%   正常
1.2V 35mA    低下45%   正常

*▲モード電圧表示の「正常」範囲は、フルスケールの約50%~70%

 ▲モードで、メーターが正常範囲を示している場合、高電圧(390~400V)が正常に発生していることをあらわしているので、自己診断を行っているとも考えられる。ただし、この状態では、2本のガイガー管、サイラトロン(TX4Bサイラトロンとあるが、日本でいうリレー放電管と思われる)へは給電されていないので、これらに障害がある場合は▲モードでは診断できない。

 電池電源は電源スイッチ(S1-2)を通り、DC-DCコンバーターへ供給される。回路は、シンプルなブロッキング発振だが、ベース回路バイアスにFETが直流的に直列挿入されており、2次側の定電圧放電管(V4、ロシアではガス・レギュレーターと呼ばれるらしい・・動作電圧380V)が動作電圧に達すると、このFETのゲートに電圧が印加され、発振を抑制する。この電圧負帰還により2次側の高電圧は一定に保たれるが、R16により微調整ができる。サーミスタR17があるが、定電圧放電管そのものの動作電圧の温度補償のようだ。発振周波数はおよそ2.3kHz。コレクタ波形参照


画像3:DP5V col WF




□部品の融通性・・・  


 定電圧放電管は現在の日本では容易に入手できないが、バリスタ(ZNR)で代用できそうだ。(周辺定数の変更が必要)
 高圧整流用のダイオードの特性は不明だが、低耐圧のチップを内部で複数直列接続したもののようで、ファーストリカバリ・ダイオード(1000V、1A程度)に交換することで、より高効率化できるかもしれない。効率が向上した場合でも、この負帰還により2次側電圧は変化せず、消費電流のみを低減できるはずだ。(確認済み)

 発振用のPNPトランジスタはストロボフラッシュインバータ用の2SA976などの低Vce sat、大電流スイッチング用の品種で代用、高率化できそうだ。(トランジスタ周辺の定数変更が必要)

 消費電流は電源電圧とおおよそ反比例傾向で、かなりの範囲(正確には未検証だが)で動作しそうであるが、過電圧保護などが無いので、電池以外で使用する場合は、気をつけた方が良いだろう。

 DP-5Vのみならず、この時代のガイガーカウンターの多くは、メーターを振らせるための低圧回路に能動素子(ICやトランジスタなどの増幅素子)を使用していない。信頼性に問題があると考えたのか、高線量環境での故障率を考慮してなのかは不明だが、低圧側(??メーター周辺)に電源が存在しないので、当然その安定化に尽力する必要も無く、そのかわりに高精度、高安定の立派なメーターが必要になる。DP-5Vも大変優秀なメーターで、このメーターだけで購入費用を十分に上回りそうだ。

写真1:メータ内部写真



写真2:メータ内部写真2


 メーター回路にもサーミスタが挿入されているが、おそらくメーター指示値の補正(メーターそのものの温度補償)と思われる。



○測定レンジ切り替え

 回路解析の図を眺めると理解できるが、レンジ切り替えは単純な感度補正にはなっていない。

画像4:回路解析.Viscomの英語版マニュアル掲載のもの(緑プローブのもの)



画像5:
回路解析(全金属プローブのもの)



□最高線量レンジ・・・レンジ#1
 もっとも低感度(高線量)のレンジでは、低感度管CI-3BGのアノードからの出力電流で、直接メーターを振らせている。それ以外のレンジでは、サイラトロンを経由し、V3ダイオードから、積分(ホールド)コンデンサへ電荷を送り込んでいるが、この想定される高線量(200R/h !!)では、ある程度の部品破壊が進んでいても、何とか表示を死守しようということなのだろうか。V3ダイオードもC6コンデンサもすべてパスしている。こうしなければならない線量が恐ろしい。もちろんヘッドホンも鳴らない。

□高線量レンジ#2、#3・・・
 高線量3レンジではSBM-20へはまったく給電されておらず、動作はCI-3BGのみで、X1000レンジ、X100レンジの違いはC5、C7コンデンサによる1パルス毎の重み付けで、C6への電荷充電量を変えている。このサイラトロンカソードのコンデンサ電荷を、サイラトロンがONになる毎にC6へ移しているのである。CI-3BG のアノード抵抗もレンジ切り替えで変わっているが、表示に対してはあまり影響はしないようである。

 ちなみにサイラトロンは2本直列に接続されているが、SBM-20からの信号とCI-3BGからの信号を加算しているようで、どちらかのサイラトロンがONになるともう片方のサイラトロンも連動してONになる。いわゆるORゲートである。V1のアノードからヘッドホンとC6への電荷充電が行われる。

□低線量レンジ#4、#5、#6・・・ 
 低線量3レンジ(X10、X1、X0.1)の基本回路は同一で、CI-3BGとSBM-20からの出力を単純加算(サイラトロンの直列接続による・・原文ではビット・チェーンと呼ばれている)し、レンジ毎の重み付け(サイラトロンのカソードのコンデンサと抵抗による)のみが違いである。

 実際にヘッドホンでカウントを聴いていると、この重み付けに応じてパツパツ音が変化する(音量が、X0.1レンジが最も大きくX10で小さくなる)。
低線量3レンジではSBM-20のみでよさそうなものだが、CI-3BGが常に同時に動作している。高線量時にSBM-20が気絶したときの対策である。

 自分でSBM-20を入手し、適切に高電圧を印加して動作させたときに比べて、DP-5Vのカウント数は3~10%程度多い傾向がある。これは計数率を向上し、検出確度を改善するためにも有効なことだが、ガイガー管の出力をサイラトロンで受けているところに、その秘密がある。SBM-20を使用したガイガーカウンターを作ってみて、動作電圧を変化させていき、出力を10MΩ以上で観測したことがある方は気付いていると思いますが、SBM-20の出力は推奨される電圧で使用していても、出力パルスには山の低いものが混ざっています。この山の低いパルスは、動作電圧を下げると、その割合が増えて、初期化電圧ではほとんどばらばらのレベルになるのですが、これがSBM-20の比例計数管モードです。

ただ、管によってあたりはずれもあるようですが、推奨されるプラトー電圧(350~475v)に入っても、この低い山がかなり残っており、この低い山をカウントに含めるか含めないかがカウント数の違いとなって現れる。

 ガイガーミュラー管は出力が高い(管自体が増幅器ともいえるため)ので、その出力をさらに増幅しようとは考えない設計者が多いようですが、DP-5Vでは、高インピーダンスのサイラトロンで受けて、この低い山も取りこぼしなく得る設計になっています。サイラトロンの役割は、この微小パルスの増幅と、インピーダンスの変換・・ガイガー管からの高インピーダンス出力を、低インピーダンスに変換・・して、ケーブルでの引き回しに耐えられるように設計されている。

 また、ガイガー管とサイラトロンのこの接続には特別な意味があるようで、サイラトロンの出力(平易にはヘッドホン出力)を波形観測してみると、放射線一発ごとのエネルギーに比例した尖頭値(振幅)に変換されていることが確認できる。ガイガー管自体は400Vの標準的なプラトー電圧が印加されているだけで、特別な「比例計数管電圧」で運用されているわけではない。ガイガー管からのパルス幅(積分した面積=エネルギー量)をサイラトロンにより尖頭電圧の高さに変換しているわけである。つまりDP-5Vは単なるカウント数による積分ではなく、実効エネルギー量を積分した「エネルギー補正表示」ということになる。
 さすがは国の威信をかけた名作の名にふさわしいマシンといえるだろう。またSBM-20はガイガーモードで使用しても、その出力にそれだけの情報を含んでいることは、驚異的だ。

 また、高インピーダンス部分が外からのノイズの影響を受けないように、プローブ全体を金属で覆ってあるが、全金属プローブのものと、緑プローブのものではシールドのとり方が異なるため、全金属プローブの製品のほうが、ノイズ耐性は多少高いようである。

□各レンジの内部キャリブレーション・・・
 各レンジには表示微調整(R20~R25)があり、調整できるが、レンジ独立なので気軽に手出ししないほうがよいだろう。正確に合わせるにはレンジ毎に所定線量の線源を用意しなければならない。うまくサイラトロンにダミーパルスを送り込むことができれば、低線量で一箇所、高線量で一箇所の調整ですむかもしれない。

 これに対して、高電圧調整(R16)、▲モード時の表示については、定期的に検査し、合わせこむようである。(この2つの調整箇所には、赤ペイントによる封止が行われていないセットが多い)

□メーター・リセット機能・・・(図面との相違)
 メーターは前述したように反応速度が、故意に低速度化してあり、読み取り精度を高めているが、レンジを切り替えたり、急激に線量が変化したような場合、すばやく対応するため、または計りなおしを円滑に行うために、メーターリセットスイッチが設けてある。表パネルのレンジ切り替えスイッチのすぐ下にあるプッシュスイッチだ。

 図面では1回路2接点(2回路2接点)のプッシュスイッチで、このスイッチを押すと、メーター回路のアースが切り離され、同時に積分コンデンサC6を強制放電することで「メーターリセット」するように設計されていたようだが、実機を調べてみると、実際に機能しているのはC6の放電回路のみで、メーターの切り離し部分は、配線された痕跡すらなかった。

 おそらく、メーター切り離しが有効な場合、▲モードでもメーターリセットが不要にできてしまう、切り離してもリリースはあまり速くならない、この接点のトラブルがあると、メーター指示値が低く表示される、などの問題があり、設計変更されたものと推測できる。

□信頼性確保の工夫・・・
 メーターリセットで、仮にスイッチが接触不良となり、メーター回路の+接地側が切断したままになったと仮定すると、その場合メーターはまったく動かないことになり、使用者を危険に曝すことになる。オリジナル回路のままの場合、重欠陥と言えるかもしれない。

 一般的に高信頼の回路設計において、微少電流スイッチ接点は「切れなくなること」よりも「つながらなくなること」が、故障として高確率で発生する。ガイガーカウンターでは、同じ故障や精度虚弱でも、真値よりも高く表示されることは許容できても、真値よりも低く表示されることは許容できない。高い方向での誤差は社会不安を煽るなどの意見もあるが、絶対精度に固執することは、この問題に関しては無意味と私は考える。なぜなら、絶対精度を振りかざす権威者には、何の保障義務も求められないからだ。もちろん精度虚弱も「程度問題」ではあるのだが・・。

 この点、軍用機はシビアである。低めや検出ができなくて、友軍が被ばくや被ばくに対する「不安」などで弱体化したときには、それはすなわち「負け」を意味する。

 このような配慮は、DP-5Vの随所に見られる。メーター周辺の回路では、表示を適正化するために、いくつかの抵抗を切り替えるようになっていて、一見複雑に見えるが、その多くはメーターに対して直列(分圧)か、メーターに対して並列(分流)である。とくにレンジごとの感度微調整に関わる半固定抵抗(R20~R25)があるが、スイッチよりも半固定抵抗の方が故障率(数値変動も含め)が高い。これらの調整部分は決して直列に入ることなく、必ず並列に挿入されている。このような回路では、直列に挿入した方が消費電流を減らし高能率化、あるいは部品点数の削減ができるにもかかわらず、上記のように何らかの不具合が半固定抵抗やスイッチに生じても、回路動作としては並列抵抗が外れるだけであり、決して表示数値は低めになることは無く、高めに偏移するように設計されている。

 直列にスイッチが入っている部分は、そのほとんどが高電圧側で、接触不良の影響が少ないと考えられる部分に限られるようだ。

 最低感度(200R/h)以外のレンジでは、サイラトロン経由でC6に電荷を送りその電荷でメーターを振らせるのだが、ガイガー管への電力はメーター回路を経由して送り込まれている。サイラトロン→C6、に対してガイガー管の消費電流は小さく、とても十分にメーターを振らせることはできないが、このようなルートがあることで、万一サイラトロンが破損または故障した場合でも、危険の有無程度(メーターの僅かな振れ)は確保しているのかもしれない。なんとなく「祈りのようなもの」すら感じる設計だ。

追記
 上記のように推論していたが、実際に故障したDP-5Vを分析したり、故意に不良になったガイガー管と交換して挙動を見る検証を行ったところ、上記の祈りは若干違っていた。
 ガイガー管の故障モードは、外気浸入などで全く入射に対して反応しなくなるパターンと、クエンチ不良により、一度放電が始まると放電が止まらなくなるパターン以外に、漫然と管内リークするような劣化が見られるが、ガイガー管からメーターへの回路(ガイガー管の負荷抵抗)は、この漫然としたリークを検出し、使用者に異常を知らせるための工夫であることが判明した。
 通常ガイガー管出力→サイラトロン点弧→C6への積分であるが、管にリークがあると、カウントしていない(ヘッドホンなどで確認できる、また高圧電源の発振音が大きくなる)にも関わらず、メーターが振れている(レンジと無関係の振れで)場合、管のリークが疑われるということのようである。
 200R/hレンジ以外の全てのレンジで、カウントと無関係に漫然とメーターが振れる場合はCI-3BGがリーク不良、同レンジで最初は全く振れず、あるときから振れる場合はクエンチ不良。低線量3レンジで同様の症状の場合は、SBM-20のリーク不良と判定するようである。

*重要部品
 メーターそのものの信頼性も重要だが、信頼性にとって最も負担の大きい部品が浮かび上がってくる。それは積分コンデンサのC6(20μF/50V)で、このコンデンサが漏れ電流の増大や、ショート方向への故障が起きると、表示精度あるいは表示そのものができなくなってしまう。スペアパーツとしてぜひとも内蔵しておきたい部品のひとつだ。
 この部品が故障しても、200R/hのレンジのみ使用できることはさすがとしか言いようが無い。しかし、そんな線量を計るような状況は、是非とも避けたいものである。

 2011年9月に故障したDP-5Vを4台調査したが、C6の故障はまったく見られず、むしろ高圧コンデンサ C12(0.1μF/750v)の方が故障率は高いようだ。(C12の故障では、高圧電源が正常に起動しなくなる)

 もちろんガイガーカウンターにとって、最重要部品はガイガー管である。何台かの故障したDP-5Vを調査してみたが、その50%でガイガー管が故障していた。SBM-20の故障は見つからなかったが、高線量管CI-3BGは比較的高頻度で故障(クエンチ不良、内部リークなど)するようで、予備を持っておく必要がありそうだ。これらのガイガー管は公称寿命が10^10(10の10乗:10000000000)カウントあるそうだが、そのカウント寿命とは無関係に寿命があるらしい。
私の独自の調査によると、満遍なく徐々に感度が低下する個体は少数で、リークが増大したり、あるときに突然かウント数が大幅増大(クエンチ不良)するパターンが多いようだ。漠然と感度が変化してしまうことが少ないのは、測定器としては好ましいが、いずれにしても予備は持っておきたい。



○拡張や改造の可能性

○さらに高感度のレンジを増設する
 今の日本でDP-5Vを使用する場合、最高感度(X0.1)レンジでも感度不足で、さらに10倍(X0.01)レンジが欲しい。このような改造にはメーター回路に現れた電圧(アース/メーター-端子間の電圧)を、そのままハイ・インピーダンス(1MΩ以上)で受けて、直流増幅し、別のメーターで表示すると良さそうだが、問題は増幅回路を動作させる電源が無いことだ。本体電源は+3Vのみで-電圧は高電圧しか無い上に、メーター周辺はすべて負電圧で動作している。
このため単電源動作のOPampは使用できず、別途DC-DCコンバーターを用意しなければならない。いずれ合理的な方法を考えてみたい。

○カウント出力を出したい、またはカウンターを増設したい
 ヘッドホン出力が利用できそうだが、レンジ毎にパルス振幅が大きく変化するため、別途、ハイ・インピーダンス入力の波形整形回路を用意しなければならない。特定のレンジにのみ使用を限定すれば、容易に実現できそうだ。例えばX0.1のレンジでは、ヘッドホン出力が大きく、そのままホトカプラのLEDを余裕で駆動できる。

 *何度かワークショップを行い、何人かの識者と話す機会もあったが、先の高感度レンジの増設よりも、低線量ではカウント出力から数値処理に持ち込む方が、実用的との考えにまとまりつつあります。また、後述のMCA利用に分がありそうに思える。

○メーター照明を何とかしたい
 メーター文字盤、レンジ切り替えスイッチは、いずれも蓄光顔料を含有しており、これが光っている状態はなかなか愛らしい。オリジナルは、1V、0.068Aの電球2個で、代替の電球も入手に苦労しそうである。
この回路の電源は、電池1本なので電圧は1.5Vで、このままではLEDを発光させることもできない。
妥当なところではHoltek社のDC-DCコンバータチップHT7733などを使用し、LEDを発光させるのに十分な電圧を得ることだろう。LEDは白色または紫外光のものを用いると美しそうだ。

○PRA/MCA(マルチチャンネル・アナライザー:γ線スペクトラム解析器)を使用し核種を判定したい
 DP-5Vのヘッドホン出力はエネルギー補正のために、比例計数管的な線エネルギーに比例した振幅が出力されている。このため、出力をAD変換し(あるいはそのままPCのアナログ入力に接続して)MCAソフトで解析することができるようです(数台のDP-5Vでしか確認していない)。しかし、ヘッドホン出力は40Vp-pもあるため、-36~-40dB程度(マイクレベル入力なら-60dB~-80dB程度)、位相補正をして減衰させなければならない。これについては記事を作成予定です。また、ヘッドホン出力は低インピーダンスで受けると、一定に近い波高に圧迫(波形くずれ)だが、高インピーダンスで受けると波形の波高はエネルギーを反映するようになる。



○メーター表示の線量当量への簡易変換(参考)

*注意:DP5Vオリジナルの単位系(mR/h)でも、現在のSI単位系であるシーベルトであろうと、数値を確定するには「プローブのβ線シャッターを閉じて(刻印「γ」にセットして)数値を読む必要がある。β線とγ線を同時に計ると数値が不正確に大きく出てしまう可能性が高いためだ。DP5Vではこの対策として、シャッターを開いた状態でもプローブにβ線スリット窓が設けてあり、異常な高い値が出ないようになってはいるが、やはりある程度高い数値が出るようだ。β線遮蔽を開いた状態では、有無と相対値がわかるだけである。

 簡易には読み取ったmR/hの数値を10倍して、μSv/hに読み替える(例:読みが0.5mR/hのときには、5μSv/h・・・正確には1/100にする)。もう少し正確には1/87.7となるが、実質的には上記でよいようだ(「放射線量計を作ろう」本編の「換算」の項を参照)。

 レンジ毎の表示範囲を示す(1mR/h=10μSv/hとして)。

レンジ番号  レンジ名称  メーターの尺  表示      換算値
1       200     0~200     5~200R/h    50~2000mSv/h  
2       X1000    0~5      500~5000mR/h  5~50mSv/h
3       X100     0~5      50~500mR/h   500~5000μSv/h
4       X10     0~5      5~50mR/h    50~500μSv/h
5       X1      0~5      0.5~5mR/h    5~50μSv/h
6       X0.1     0~5      0.05~0.5mR/h  0.5~5μSv/h

 この機種が如何に広範囲の線量に対応しているかよくわかる。レンジ1は壊れた原子炉突入用だろうか。チェルノブイリの石棺内部、黒鉛チャンネルの残骸付近で300~400R/hくらいらしい。200Rレンジが、やっぱり振り切れるのだろうか。


※メーターも自作するかたのために、以下掲載しておきます。