「水考」は既にオリジナル版、Lite版を公表しているが、前者は災害時や緊急時にライフラインを確保することを目的に、サバイバル一般での飲料水確保を、lite版は前者の活性炭による吸着除去プロセスのみを、できるだけ少ない文章量で解説することを目標に著した。

  本稿「水考プロフェッショナル」ではより高い確実度で、しかも大量の水処理能力を獲得することを目標に記述する(ただし内容は活性炭による吸着除去プロセスを中心に)。

 「水考」オリジナルを熟読すると気付くと思うが、活性炭の使い方について2種類の方法が記されている。言葉の上では、「破砕した白炭」と「粉砕した白炭」である。

文字通り前者は1立方cm程度の中程度のブロックに砕いたものを用い、後者は粉末になるまで粉砕した白炭を用いる。どちらも炭の活性界面に不純物を吸着することには変わりはないのだが、実務的な使用方法がかなり異なっているので箇条書きにまとめてみた。

炭の加工方法       破砕        粉砕
1)炭の加工        容易        やや難 
2)吸着除去に要する時間  6時間以上      30分~1時間(6時間)
3)吸着の確実性      中         想定範囲で確実 
4)吸着処理後の処理    簡単なろ過     厳重なろ過
5)炭の再利用(浄水)    1週間程度繰り返し 不可
6)炭の再利用(燃料)    乾燥させ可能    難あり 
7)消費・消耗の把握     容易ではない    容易 
8)処理能力        中~小       大~小
9)処理実績        気は心       水道事業者も採用

 本稿「水考プロフェッショナル」では、上記の粉砕法について解説する。



1)炭の加工

 適当な大きさ(1立方cm程度)に破砕するなら、堅牢な袋に入れて金槌で叩けば適当な大きさに砕けるが、適度な細かさに粉砕するには一定の工夫が必要である。
破砕同様に堅牢な袋に入れて、細かく叩き続ければどんどん細かくなっていくが、あたりに炭素の粉塵が舞い散るため、

○作業者は必ず防護めがね(普通のめがねで可)とマスク(簡易なものでも可)を着用する。

○紙の袋などでは、強く叩きすぎると容易に破れるが、一定以下の力で細かく数多く叩くと破れ
や飛散を低減できる。

○作業は乾燥した、清潔な環境下で行う(地面では行わない)。

○粉砕作業はできるだけ水への投入直前に行う。粉砕してから時間が経つと、活性が失われて
いることがある。  

*コーヒーミルなども使えそうだが、炭がかなり堅いので、ある程度破砕してから投入しないと、ミルの刃が損壊してしまう。グラインダーやドリルにダイアモンドホイールを取り付けたものはなかなかうまく粉砕できるが、こすって粉にした場合と、加圧して砕いた場合で、炭の活性状態が異なるような気もする。

手近なもので加圧粉砕できる工夫はないものだろうか。検証データや工夫が見つかれば、適宜紹介します。

 ダイアモンド電着ホイールでの粉砕の資料写真を掲載します。








 明らかなのは、大量に粉砕してもその粉末状態で備蓄すると活力が徐々に低下していくので、粉砕したら1週間程度で使い切るようにしたい。


1-b)水への投入の前に

 粉末のまま水に投入しても、水の表面張力により、水面にぷかぷかと浮かんでしまい、なかなか水中に入ってくれない。高速度な吸着がメリットなのにこれでは何をしているのだか・・・。

 水の容積から割り出された炭の量(水1リッターに対して小さじ山盛り1杯または1グラム・・・この量は水道事業者が用いる量よりも、数倍多い)をコップなどに入れ、少量の水で練り上げる。練り上げる固さは焼く前のお好み焼きやもんじゃ焼き、あるいはホットケーキ程度。よく練り上げて水に馴染ませる。

 この工程を入れることで、炭の活力は高まり、より高速度、より強固に異物を吸着する。量にもよるが、この工程に3分から5分かけることで、効率的に炭を利用することができる。

*メチレンブルーで吸着性能を把握
 練り上げた炭ペーストを少量試験管などの容器に入れ、水で希釈し、少量のメチレンブルーを入れ、色の消え具合を確認する。

ペーストにして活性化した活性炭では、5分から20分以内に色はほとんど確認できないほどに消失するはずです。とくに入手したニューフェースの炭や、長期備蓄していた炭では、実使用する前に性能把握しておくべきでしょう。
一部には「備長炭」とは名ばかりの黒炭も販売されていた例があるらしい。

 また炭にも個性があり、ものすごく急速に吸着するものもあれば、一定時間後に急に目覚めるのもいるし、吸着能力はあるのにやたらと時間がかかるものもある。また、粒子の細かさによっても大きく影響される(細かいと速い)。

 このテストにより、吸着時間を把握しておくと、実際の吸着時間の参考になる。


1-c)水への投入

 練り上げた活性炭ペーストを、少しずつ攪拌しながら、ボトル(タンク)全体に行き渡るように、規定量投入する。



2)吸着

 この工程は目には見えないが、メチレンブルーによる吸着状態を思い浮かべればよい。水に活性炭ペーストを投入してから、最初の10分から20分は攪拌(かくはん=混ぜること)し続けた方が良いでしょう。

 この状態で、水は薄黒く濁っているはずですが、吸着処理中は炭の粒子が水中を漂っている必要があります。

 その炭が有効な炭であるなら最低1時間程度は放置し、使用を急ぐ場合はろ過工程へ、急がない場合は10~20時間安静にしておくと炭の微粒子の多くは容器の底へ沈降・沈殿し、上澄みをろ過すると使用できます。ろ過は布ろ過→中空糸膜を強く推奨。


2-b)貯蔵

 ろ過した水を2日以上貯蔵する場合は、「オリジナル水考」に記述したように塩素注入し空気排出+密栓で貯蔵します。




3)吸着の確実性

 粉砕された炭では、その活性のある面のすべてが水と接触しているので、無駄なくすばやく吸着がおこるが、破砕した一定以上の大きさの炭では、表の活性部分が目詰まりなどを起こすと、それよりも深い部分にある活性面はマスクされてしまい、有効に機能しないこともある。

何より奥の方まで水が入るのに数日もかかるという遅さだ。遅いが、絶対量が大きいため、想定を越える量の吸着物があっても徐々に吸着が進むが、粉砕したものでは想定を超える量の吸着すべき不純物がある場合、吸着は一定のところで止まってしまう。

 水道事業者(自治体の水道局など)では、浄水する以前に、取水した水に含まれる成分分析を行い、投入する活性炭の量(活性炭を使用している事業者とそうでないところがある)、塩素の量、沈殿にかける時間などを日々調整している。

これに習うなら、水道水に含まれる成分を分析しなければならないことになるが、これらの事業者でも具体的に有効な吸着プロセスの多くの部分は活性炭の投入である。

 ペットショップの熱帯魚コーナーには、水質検査のための試薬もいくつか並んでいる。


3-b)各家庭で浄水することの意味<一部に筆者の思想が含まれます>

 現在、関東地方の上水道の一部から、法令基準値を上回る放射性物質が検出され、大きな問題になっている。また、今日は(3月28日)原発敷地内でプルトニウムが検出され、ニュースで取り上げられていた。

国の機関や解説者はやたらと「すぐに健康被害は生じないレベル・・」を強調しているが、私の知識では、取り込んでしまったら、どのプルトニウムであろうと、1原子で深刻な体内被曝を生じるハズだ。しかもプルトニウムをはじめ多くの放射性同位元素は排出されにくく、長期間体にとどまり被爆し続ける。

確かに「すぐに~」ではない。だから体外からの被爆と体内被曝を同列に論じることはできないし、諸説あるものの、私は原子炉由来の物質による体内被曝に関して、閾値(これ以下なら安全・・という)を設けるべきではないと考える。

* 実際にα崩壊しかしていないはずの超ウラン元素で遊んでいると、α線にまったく感度の無いはずのセンサーでも、バリバリと放射を観測できる。たまったものではない。

 低線量被爆(火傷するほどではないという・・)でも、如何に少ない被爆量であろうと、必ず放射線の照射を受けた細胞の染色体(DNA)は傷つく(多くの場合部分切断)が、細胞核には修復酵素が用意されており、一定以下のダメージに対しては、ほぼ完全な修復が行われる。

一見鉄壁な防御機能のように見えるが、正常な体ではこの修復機能にも制限が設けられている。

なぜなら、細胞がその寿命をまっとうしたり何らかの問題が生じた際、その細胞は計画的に死滅させられ排除される(これがアポトーシス・・主に免疫系が仕切っているらしい)が、このDNA修復機能はアポトーシスよりも下位にある。

 ところが、漫然と放射線を浴び続け(体内被曝とはそういうこと)DNA破損と修復を繰り返しているとこの修復機能が強化され、免疫系から見るとどう考えても異常にになっていて排除命令が出ても、その最初のステップであるDNAの読み出し停止と切断(これも酵素)よりも修復の方が勝るようになり、アポトーシス不能に陥る。

あげく染色体末端のテロメア部分まで修復するように(やや飛躍)・・・この時点で細胞は不死となり、明示的にがん化。 DNA修復酵素の発動は、それ自体がん化へのステップであり、反免疫なのでは??

 これががん化の一つのシナリオ(無論これ以外にも様々なシナリオがある)で、このDNA修復機能はできるだけ発動しない方がよい(つまり体内被曝は少ないほどよい。
半減期の長い核種は致命的なはずなのに、これにも異論を唱える学者が・・・このDNA修復機能も使った方がより健康になる???理解できない)ことの根拠だ。

また、このDNA修復機能は妊娠初期では非常に弱く(つまり極めて低線量でも致命的・・・本来はこれに合わせるべき)子供では活性に、老人では弱くなることも知られている。また個人差も大きい。その症状が現れるのに時間がかかる。

 原爆投下から3世代経ても、統一された臨床的数値が確定できていない現状は、免疫系が謎に満ちていることと同義である。さらに原子力関連技術が国家の浮き沈みを左右する巨大事業であることが、話をややこしくしている。

また、放射線障害・症状の現れ方が「必然系」である「分布」にならないことも「医学」や「疫学」で取り扱いにくいことの要因の一つで、どちらかといえば子々孫々にわたる「呪い」のような「不確実さ」を伴っている。だから恐ろしいのだ。

IAEAは土地の汚染を指摘し、政府は空気の汚染を環境と呼ぶ。呪われた土地からは撤退せねばならない。

 もともとわが国が国策として原子力を推進するに当たり、反対勢力を説得する意味でも、前提とした技術予測がある。それは2000年ころまでには、核廃棄物を安全に効率的に処理する技術が確立され、汚染を取り除く「コスモクリーナー」も実現している、というものだ。

ところが現実にはそれらは開発の目処すらたたず、「本当に厄介なもの」だということが判明し、汚染が漫然と進行しただけだ。私は根っからの反原発ではないが、運用する側がその詭弁に使うように、安全であることを本気で信じているなら、やめたほうが良いと思う。

危険であることを十分に理解しているなら、今回のような判断ミスや判断の遅れは無かったはずだからだ。

 <ご清聴、ありがとうございました!!>


 ニュースでは「安全である」と妙な啓蒙をしていても、実際の水道事業者たちは何とか基準値以下になるように必死に対策を行っていると思われるが、政府の公式なコメントが信用できないなら、できる範囲での自衛は「精神的」にも必要なことだろう。

 前項で記述したように、このテキストで解説している手法と水道事業者の手法は重複している部分が多い。違いは、水道事業者の場合、限られた設備で限られた時間で、要求される水量を確保しなければならないが、各個人でできることは同じ手法であっても、十分な時間と十分な予算をかけることが容易という点である。

とくに浄水にかける時間を多くするには、水道事業者の場合水槽の大型化、敷地の大型化が要求され、容易には実現できない。

 各個人ができうることに翻訳すると、十分な活性炭の投入後、十分に攪拌し、十分に吸着時間をとることである。もちろんその後のろ過も。


*逆浸透膜に対する私の見解
 現在の危機的状況に対する画期的な解決策(水とそれ以外を分離できるという)として、逆浸透膜が脚光を浴びているようだが、実際に水を逆浸透膜通過させるには浸透圧以外に、現実の水の状態である分子塊を崩さなければならず、非常に高い圧力を必要とする。

また逆浸透膜の穴の大きさは分子サイズよりも相当大きく、高分子でできた物(ウィルスなど)は濾し取ることが容易でも、無機分子レベルとなると水とのサイズの差が小さすぎ、有効な分離能力のある逆浸透膜で、実用的な水の通過量は得られないと思われる。

また水の通過量が大きい装置(浄水量が実用的)のものでは、設定されている穴のサイズが相当に大きいと思われる。また目詰まりをどうするのか、疑問は多い。

結局、動作メカニズムそのものが推測の域を出ない部分もあり、個人的には試してみたいとは思うものの、他人に推奨できるレベルとは思えない。ちなみに炉やタービン建屋内の莫大な量の汚染水の処理には、結局は活性炭吸着されることになるだろう。逆浸透膜が優秀なのならそちらに投入すべきだろう。



4)十分なろ過

 活性炭の投入後20分程度攪拌を行うが、その後しばらくは「これが飲めるのだろうか」と思えるほど濁っている。しかし安静にしておくと10~20時間程度で上澄みはきれいに透き通ってくる(水面には炭の破片が多少浮いているが)。このときに上澄みのみを汲み上げるとほとんどろ過しなくてもよいほどに見えるが、目的から考えると厳重にろ過しなければならない。

 手作り布ろ過(水考オリジナル参照)→中空糸膜ろ過で、ほぼ完璧に処理できているはずだ。トリウム/ラジウム指標で簡易なテストしてみると、布や中空糸膜の線量が上がっているので、やはりろ過は厳重に行うべきだろう。




5)炭の再利用と廃棄

 粉砕した白炭では、一度浄水に使用したものを再度浄水に使用することはできない。異論もあるだろうが、埋設するか下水に廃棄することが合理的である。

(他に適切な方法が無いし、水道水に含まれる微量アイソトープを目いっぱい吸着していたとしても、おそらく花崗岩の破砕物と同じかそれ以下と思われます。また、農耕地にでも埋設しない限り循環よりも早いと思われます)




6)燃料としての炭の再利用

 陰干ししておくと容易に乾燥し(風が吹くと容易に飛んでいく)、乾燥したものは木炭などと一緒に燃やし、火力とすることができる。しかし、本当にヨードやセシウムを吸着しているなら、それらは再び気化し汚染を拡大する
(ほどの量ではないと思うが)かもしれないと思うなら、燃やすべきではないだろう。)




7)消費・消耗の把握

 粉砕した白炭を使用する場合、毎回炭を使い捨てしていくので、消費を把握することが容易である。

 備長炭を枝の形そのままで水に投入する方法や、破砕した白炭を水に投入して浄水する方法があり、これらは何度も再利用が可能で、一見するとエコでリサイクルなイメージがあるが、「水考オリジナル」で触れているようにメチレンブルーを用いたテストでも吸着に5~6時間もかかる。

面倒なので、ついこのような検証を怠ってしまうのが人間で(私も含め)、結局実効性の乏しい「気は心」的運用に堕ちてしまう。実際にまめに検証しても使用期間にはばらつきもあれば、破片の中心部分まで使用できなかったり、結局のところ、真剣に使用するには無駄が多いように思われる。

 この点で、粉砕しての使用は「水量に比例した消費」なので、計画的運用が行いやすい。




8)処理能力

 7)と同様に粉砕した白炭を用いる場合、浄水の規模は単に容器の大きさだけで、使用する炭の量は水量に比例するため、大規模化が容易である。
(粉砕に関して、何らかの機械化を行わないと、左手を金槌で打つ確立が上昇してしまうという問題はある)

 これに対して破砕の場合は「水考オリジナル」にもあるように、水位の1/3~1/2ほど入れても6時間以上必要。大規模化を行うには初期に相当量の炭を投入しなければならない。
白炭を枝のまま使用した場合に必要な時間や量は、想像したくもないほどになる。現実的には実効能力のある大規模化は困難。




9)実績

 粉砕活性炭による浄水は、上水道事業者で採用されているだけでなく、吸着反応がすばやいことから、誰にでも容易に効果の検証ができる。このため、効果を理解することが容易で、納得の上運用ができることの意味が大きい。

 今回このテキストを執筆するに当たり、インターネット上にある「浄水」などのキーワードで検索を行ってみたが、その多くは検証がろくにない、味の良し悪しや主観的健康論、意味不明なブランド礼賛で、役に立ちそうなものがあまり見当たらなかった。
本来このテキストは「サバイバーライン」(私の造語:災害時などに知識や技術の有無が生死を分けるという)のカテゴリに属するものです。本編で備えてください!!どうせなら苦難は快適に乗り切るべきです。

**この一連の調査や実験、データ作成は'95年の阪神淡路大震災を経験し、対応策の一環として個人的に確立したものを、数名の医師と技術者の助言をもとにリファインしたもので、その他の「サバイバーライン」コンテンツと併用することを前提に執筆しています。ともに生き延びましょう。