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                                                          (C)Y.Utsunomia 2011

 腕に覚えのある多くの自作家や、覚えの無い方がガイガーカウンターの自作に挑戦しているが、一定のところまで工作が進むとバックグラウンドや、その辺に落ちている鉱物(砂利道でも個々の砂利は相当に個性的・・稀にすごい砂利も)やランタンマントルでは満足できず、真空管や放電管の電極、溶接棒からカメラのレンズまで、線源を求めて右往左往されているようだ。

 他によく知られているものでは、耐熱調理器具のパイレックスやそれに相当するカリウムガラス製品や、高カリウムの食品などが識別訓練には向いている。

 工作する場合、正常に動作しているかどうかを確認することは重要で、バックグラウンドなどの低線量を計測するだけでは到底満足できないことはアタリマエのことだ。

 多くのビルダー達が求めているのは「激しい線源」のようであるが、もちろんそれらは有害であり、正しく管理できなければ他人に迷惑をかけるまえに自分がダメージを受けてしまう。

 そんななか私は幸運(なわけないが)なことに、自らが大変高レベルの線源になってしまうというイベントがあり、そのチャンスを生かすべく限られた時間の中で、自作カウンターの性能テストや様々な推論の検証と、動画の撮影ができたのでこの場で公開したい。


 そのチャンスとは18F-FDG-PET/CT検査を受けたことで、私の場合は持病の問題で、この検査を緊急に受ける必要があったため保険適用で受診できた。現在では健康診断の一環として、誰でも(これが大問題なのだが)金(約10万円)さえ払えば受診できるし、十分に準備しておけば非常に高度な観測やデータ収集がができる上に、健康診断にもなる(なかばブラックジョークです・・・)。

 この検査は「PET-CT」で検索すれば容易に調べることができるが、簡単に解説すると、加速器で作った18F(フッ素18:ラジオアイソトープ:β+崩壊)を含む糖を検査前に静脈注入し、その行方を体外から3次元検知し、CT画像とソフト的に合成し、マップ化する検査だ。糖の大量消費器官は脳と不死化した細胞なのでそこに集積し、その部分でβ+崩壊する。

β+崩壊とは陽電子放射で、放射された陽電子は近隣の電子と対消滅しγ線を放出する。このγ線を体外から指向性シンチレーション、あるいは1対消滅あたり2発正反対方向にγ線放出するので、周囲から同時検出することで方向を特定し画像化するのだが、18Fは半減期110分なので比較的短時間に消滅排泄されるという。

このラジオマーカーのことをトレーサーと呼ぶ。

 問題は線量なのだが、医療関係者向けの統計資料では、トレーサーは平均300MBqから370MBq程度で、推定吸収線量は5.7mSvから7.0mSv程度のようである。トレーサーの指向性シンチレーションのみでは解像度がかなり低いため、一般的には通常のマルチスライスCTと併用し、解像度と位置情報を高めるが、このCT時にさらに体外から20mSv程度のX線を照射するので、トータル25mSv程度の被ばくとなるようだ。

 この一年で年4回ペースで通常マルチスライスCTも行っているので、ここ十ヶ月で100mSvを超えているが、困ったものだ。

 CTの痕跡をガイガー管で検出することはできないが(もちろん持ち込めばパルス数位は数えられるだろうが)、トレーサーの減衰は容易に観測することができる。

         

       http://www.youtube.com/watch?v=mXjayeVGkPw

 この動画は検査が終わり管理区域から解放されて30分程度経過した状態(トレーサー注入後2時間程度)で、装置は秋月キット(検出管はD3372 浜松ホトニクス製、BG≒3CPM)ですが、検出音がピッピッではなく、完全に連続のピーになっている。

音は上限だが、検出は正常にできているようで、カウンターは激しくアップカウントしている。このカウンターはポータブルビデオデッキ内臓用で、3カウントで1アップするようにセットしてある。カウンターの最大カウント500CPS以上。



       
       http://www.youtube.com/watch?v=7dODGrTEO-E

 この動画は帰宅後(トレーサー注入後3時間後)のもので、装置はSbM-20+ハイレート高圧電源+TC5032カウンターです。音は秋月キットのもので、SbM-20の方にはブザーが付いていないのであしからず。

 動画ではどうしてもSbM-20と線源(体)を近接することができなかったので、ややカウント数が低くなっていますが、実際には15000CPM(簡易換算100μSv/h)を超えています。

 あまりの線量に動揺してしまい、高電圧が何らかの原因でオーバープラトーしているのではないのかと思い計りなおしたり(電圧ブリッジによる平衡測定)、カウンターがノイズで誤動作しているのではないかと思い、ノイズマージンを計りなおしたり、出力の録音物と表示の照合も行ってみましたが、いずれも正常でした。

 冷静にBGを見ればよかったのですが、近づくと常に狂ったようにカウントするのでわけがわからなくなっていたのかも。冷静に20mくらい離れて望遠鏡で観察すればよかったのですが・・(10mでは800CPM以上にもなる)

*ビデオでは動作させながら、私が遠ざかるシーンも収録。

 通常動作テストに使用する小さな線源では、少し離れるとすぐにBGと区別できなくなってしまうが、線源が強く、しかも大型(人間一人分)では相当に離れていても検出ができる。これはD3372でも同じ(7mで100CPM)。
ちょっとした発見だ。



        
        http://www.youtube.com/watch?v=em-v38jF4vA

 実際にブザー(ピッ音)を付けていてもこの頻度では何の意味も無いし、何とか動画にも収めたいと思い、セラミックイヤホンを仮設し、ビデオのマイク付近にセットしたもの。ピッ音は秋月キットのもの。SbM-20のものは、かすかなレベルで入っている「ジャー」音。

 半減期110分のはずなのに、最初の3時間ほどは理論値とは違いあまり減少がなかった。また、D3372との換算値の開きも大きかったが、6時間ほどから半減カーブと一致するようになり、16時間で十分に減衰し(SbM-20でかろうじて検出可能)、20時間でバックグラウンドとの識別が困難となった(おそらくシールドルームでは識別可能と思われるが)。この原因について考察してみたが、それは以下の通り。

 SbM-20は相当に高感度管で、有効動作範囲も公称0.014~144mR/hで、上限は1440μSvになるが、これは多くの管の中でもかなり低い部類に属する。またデッドタイム(最小不感時間)が大きく、そのため100μSvでも既に飽和に近づいているため非直線領域に入ってしまっているかもしれない。

このため高線量では変化が読み取りにくく(実際CI-3BGやD3372の方がリニアリティーが高いように感じられた)、低線量では直線性が回復するといった性質があるのかもしれない。

 もう一つ考えられる原因はアノード抵抗(バイアス)に、20MΩを使用しているが、定格4.7MΩに対して大きい数値になっている。この理由は管の寿命の延長とクエンチングなのだが、放電直後に管の静電容量に充電が始まり、やがて再度励起状態になるが、このリカバリーに要する時間はアノード抵抗に依存し、概算でもリカバリー時間は4倍かかることになる。

アノード抵抗値は最小不感時間にも影響を与えるため、高抵抗にすると寿命と引き換えに、高線量(とは言い難いがSbM-20は高感度管なので)の直線性が犠牲になるのかもしれない。実際の軍用線量計でもSbM-20とCI-3BGを2ウェイ使用(低線量はSbM-20、高線量はCI-3BGという組み合わせ)の機種があるので、そんなものなのかもしれない。

 問題はJ408γで、バックグラウンドは大きいくせに、実際の入射線量に対しては感度が悪く(感度という概念はないはずなのに・・・検出率が悪いというべきか)、取りようによっては、SbM-20よりも低い検出しか得られない場合もある。また光線にも反応し、光線そのものがバイアスとして働いているようだ。

遮光して使用すべきなのだろう。D-22はすばらしい感度とリニアリティーだが、やはり上限は高くは無いようだ。


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 この文章は自分の身に起こっていることやPET-CT検査をひけらかそうとするものではない。

この検査を受けることの妥当性に私は同意しているし、結果にも期待している(本当は検査そのものがイヤでイヤでしょうがないのだが・・)。

問題は、この検査が任意に誰でも受けられるもので、その検査を受けた直後の人がその自覚もなく、その辺を歩き回ったり電車に乗ったりしていることだ。

 実際にどのような説明があるのか、つぶさに観察記録していたが、周囲に及ぼす影響については、ろくな説明も無く印刷物も配布されなかった。

唯一の説明は、妻が検査室の受付スタッフを問い詰め、はじめて語られるといったお粗末さで、実際に検査室から解放されるときに「十分に安全なレベルまで下がっています」と言われていても、先の放射線レベル(観測結果は低めのように思われる)なわけだ。

 その数値も待ち構えていて初めてわかるもので、検出器がなければ知る由も無いだろう。

 この放射線レベルでは、健康な成人男性ではあまり問題がないだろうが、妊婦(とくに妊娠初期では無かったことになることも)、子供では十分に影響を与えるレベルと考えられる。

その数値を告知することが、検査の普及の妨げになるかもしれないことは十分に考えられるが、実際に24時間後には完全に減衰するのだから、この検査は簡易に入院(一泊)とセットにすべきものではないか、と強く訴えたい。

また、わずかでも被ばくすることがイヤな方は、やはり検出装置を装備し外出すべきだろう。

そういうリスクのある社会なのだから。