(C)Y.Utsunomia 2011

 TC5032は周波数カウンターをはじめとする計数機能に特化した専用の大規模ICで、とくに周波数カウンターへの応用が最小の部品点数、少ない配線量で実現できるように考慮されている。この時代の計数機能に特化したICの中ではシンプルな方ではあるが、その分単純で低価格で使いやすい。

より高機能なカウンターでは、入力が2つ以上あり、周波数比、パルス間のインターバル測定、デューティー比測定機能などが簡単に実現できるIC(インターシル社に多い)があったが、現在では入手は困難。

 TC5032はとくに汎用の周波数カウンター(ゲートタイム毎にその間のカウント数を表示する機能)に的がしぼってあり、その分低消費電流かつ配線が単純。

主要な性能は、
・カウント/表示桁数:6桁(増設容易)、
・最大カウント:14MHz(typ)、
・消費電流:1mA(最大・・ただし表示分を除く)、
・ダイナミックスキャン表示(LEDの場合カソードコモン)回路(発振回路内臓)、
・ゼロサプレス機能(オートブランキング)、
・各桁上げ出力、
・オーバーフローラッチ機能
・中途桁からのカウント入力

などを装備し、
・電源電圧:3~8V(カウンター部分は2V動作可能)で、動作可能なため、ガイガーカウンターのカウント/表示部分として最適な性能であると言える。

 最大カウントが過剰な性能なのではないか、と考える方もいらっしゃるかと思いますが、ガイガー管からの出力は気まぐれで(ポアソン過程)、平均的なパルス列ではなく、バックグラウンドの測定でさえ、0.1mSでパルスが隣接することもあったりと、隣接する2つのカウントがどれくらいの時間幅なのかは未定で、とりこぼしなくカウントするには、できるだけ高速のカウンターを用いるべきと考えられる。

 厳密には、ガイガー管の「minimum dead time」から割り出される最小幅を確保できていなければならない。SbM-20のminimum dead timeは190μsecなので、その逆数から5263.16Hzの5倍程度はクリアする必要がある。(やはり14MHzは過剰性能??これでは説明になっていないが、十分に速い方がいいです!)



○設計した回路例の表示タイプ


カウントの表示は3つのモードを備えた。

ノーマルモード:(表示モード1)
 ゲートタイム毎に、そのゲート期間の前のゲート期間のカウント数を静止表示。(ガイガーカウンターとして使用する場合、通常はこのモード)


アップカウント+ゲートモード:(表示モード2)
 ゲートタイム毎に、そのゲート期間のリアルタイムのリアルタイム表示。ノーマルモードでは、その表示は前のゲート期間のものであり、現在のリアルタイム表示ではない。従って表示には感覚的遅れがあり、例えばセンサーであるガイガー管を手持ちし、どこに線源があるのか探索する場合にはこの遅れが煩わしい。ただし、このモードでは常にアップカウントし続けるので、数値そのものは読み取りにくい。


積算モード:(表示モード3)
 このモードはゲートタイムを持たず、常にカウントしっぱなしの動作。積極的な計測ではなく、ロガーのように、常にカウントし、積算被ばくなどを算出(そのためには開始時間と終了時間の記録が必要だが)するためのモード。

ただし、これら3つのモードは択一で、同時には動作できない。上記2つのモードと積算モードを併用使用する場合は、積算について万歩計などを追加装備する。 



☆回路解説

 このカウンターブロックに入力された信号は、初段の2SC1815を経由。

ここでトランジスタを介しているのは、GMTプローブ(高圧電源とガイガー管と検出初段)からの信号に、イレギュラーな高電圧のスパイクなどが含まれていた場合(動作中に接続を変更したり、イレギュラーな高電圧のリーク、ガイガー管内部での短絡など)にでも、静電破壊しやすいC-MOSロジックを保護することを目的としている。

さらにこのトランジスタのコレクタにはダイオードが入っているが、トランジスタに高電圧スパイクが入力されると、スパイクはコレクター側に抜けてしまうが、このダイオードにより、電源電圧を超えるスパイクは、電源へ流れ、以降の回路へは流入しない。

 TC5032が必要とする入力は、入力パルスとカウンターのリセットパルスとトランスファー制御パルスである。TC5032には計数を行うカウンターがその中心だが、そのカウンターの計数結果はそのまま表示出力へ送られるわけではない。

カウンターの計数結果は、一旦一時的保持回路(通称、ラッチと呼ばれる・・レジスタとも)で保持され、その保持結果を表示するような機構になっている。この仕掛けで、表示モード1のようにカウンターで計数しながら、前
回の計数結果を→ラッチへ送り→「固定表示」という動作を行うことができる。

 タイミングで表すと、ゲートがON→カウンターで計数→ゲートOFFでカウンターの計数結果をラッチへ読み込み(これをトランスファーという)表示(その直後にカウンターリセット)→再びゲートON・・表示はラッチのまま・・カウンターで計数、、、を繰り返す。

 回路図に簡単なタイムチャートが示してあるが、キッチンタイマーと連動させるためにU5とU6がある。

 キッチンタイマーへのカウントスタートパルスはU5で作成されるが、キッチンタイマーにスタートパルスを送ったかどうか(というよりもキッチンタイマーがカウントダウンしているか否か)を記憶しておかなければならない。そのためにU5を使用している。

U5は本来タイマー動作を目的としたICなのだが、この回路ではタイマーとしてではなく、単なるRSフリップフロップとして使用している。やや変わった使い方だが、キッチンタイマーとのハンドシェーク動作として重要な役割をはたしている。

 キッチンタイマーは設定した時間が経過したら、ブザーでそのことを教えてくれるが、ブザーの信号を利用し、U5は時間が来たことを検知→ブザーを止める。→インターバル(U6)をとって、→ふたたびキッチンタイマーをスタート。のように動作している。

 必要なインターバル時間はキッチンタイマーにより様々で、その微調整がU6の半固定ボリュームだが、通常は最小で動作するだろう。

 キッチンタイマーを回路解析し、電源を共有にすれば、直結にすることができるが、カウンター回路の電源とキッチンタイマーの電源電圧は異なり、どのような組み合わせでも動作できるように、フォトカプラで結合している。

 解説が前後するが、TC5032のリセット信号とトランスファー信号は明確に順番があり、先ずトランスファーし、トランスファーが終了してからリセットしなければならない。そのタイミングを作成しているのが74HC14によるCRディレー回路であるが、上記のようなモード切替により、タイミングや制御の有無を切り替えなければならないので、74HC153によりその切り替えを行っている。積算モードのために手動リセットボタンも備えている。

 TC5032の出力は10進6桁のダイナミック表示(ダイナミック表示とは、各桁を同時に表示するのではなく、各桁を順に光らせ、目の残像によって6桁の表示を見えるようにする形式。利点としては配線量を減らすことができるなど)であるが、7セグ表示器のキャラクタは内蔵していない。

TC5032の出力はBCD4ビットの出力が一つあるだけで、その出力に好きな表示ドライバを組み合わせることができる。私の設計の定確度カウンターのように5411のかわりに74HC42を用いれば、バーディスプレー6桁表示も可能。数値としては読み取りにくいが省電力やアップカウント状況の感覚的な把握には効果がある。

 一般的なTC5032を用いた設計では、4511の出力にトランジスタなどのバッファが付けられることが多いが、本機では7セグ表示器に直結している(ただし100Ω経由)。これは4511の出力が通常の4500シリーズの出力としては特別大きいこと(25mA)がその理由で、万一破損(数十台4511応用回路は設計製作しているが、破損したことはない)しても4511の交換(ソケット使用)ですむためこのような設計になっている。

ただし100Ωは最低限必要で、これを直結にすると、発光部分によっていびつな表示になることがあるので注意。表示器にはPARA LIGHT社製 C-421SR(高輝度タイプ)をあらかじめ6桁分接着一体化し、用いている。












☆明るさを可変(消費電流を可変)する場合

各桁駆動回路(2SB976)の共通アース側に抵抗を挿入することで、電流制限を行う。減光した場合、使用セグメントの多い桁と少ない桁で明るさが変わってしまうが、この方法がもっともシンプル。抵抗値は表示器により100Ω~1kΩの範囲で調整。

 各桁の駆動(T1~T6、負論理)はさすがにTC5032直結は無理で、必ずPNPトランジスタかバッファアレイを用いる。作例ではストロボフラッシュ・インバータ用トランジスタの2SB976を用いているが、この用途にもこのトランジスタは最適なようで、汎用トランジスタを用いたよりも明確に明るい。

 ダイナミックスキャン表示のスキャン速度は7番端子と8番端子の間に入る抵抗の値で決定される。外部からのクロックでスキャンさせるには、抵抗を入れずに8番端子にクロック入力する。

部品レイアウトだが、作例の写真のように、他のロジックに対してTC5032を転倒配置すると配線が楽になる。回路図でも倒立配置にしてある。ユニバーサル基板で作ると、もっとも面倒なのは74HC14のCRディレー周辺になる。それ以外はすべて2ドットで済む、だろう。



簡単な動作テスト

 ターンオン・リセットは組み込んでいない(電池交換時の継続測定を考慮)ので、電源を投入すると、カウンター内部に残留している電荷による数値が表示(どういうわけか555555のことが多いようだ)される。

 カウンターへの入力は、何か信号源を接続すればよいのだが、2SC1815のベース入力と表示回路の100Ωのどこかと接続すると猛烈な勢いでカウントアップするはず。これはダイナミックスキャン信号をカウントしているため。しない場合は、順に信号をたどりテスト。

(ただしリセット後はゼロサプレスで出力はなくなるため、100Ωと接続してもカウントしない・・・正常)電磁波環境によっては、2SC1815のベースに触れるだけで、電源周波数をカウントする。

注)2SC1815のベースには直列抵抗が入っていないため、むやみに回路の電源端子に接続しないように!!

 マニュアルリセットスイッチで表示は消灯(ゼロサプレスのため000000は表示されない)。

 以上でカウンターの基本部分は正常動作の確認ができた。

 ゲートディレー部分は実際にキッチンタイマーと連動させて、動作確認。

 私のプランした回路の概要は、定時間計測と定確度計測、さらには積算計測に対応し、低消費電流と作りやすさを目指した。



○定時間計測

 定時間計測とは普通のガイガーカウンターに装備されているような、一定時間ごと(例えば1分、100秒、10分、など)に、その間のカウント数を表示する機能で、この時間のことをゲートタイムと呼ぶ。

 TC5032はゲートタイムをつくる回路を内蔵していないため、外付けでゲートタイムジェネレータを必要とする。

 私のデザインでは、ゲートタイムを作り出すのに、手近にあるキッチンタイマーを利用している。動作やタイミングは上記解説とタイミングチャートを参照。

 キッチンタイマーを用いている理由は、本文にも記述しているが、コストと製作難易度の引き下げだが、それ以上に、ディスプレー(カウントダウンやユーザーインターフェースとして)や時間のセットに関する入力インターフェースの完備などがあげられる。

すべて自作すれば多少の精度向上は期待できるが、同等の機能の実現は容易ではない。精度の向上に関しては、キッチンタイマー内部の水晶発振子の交換などで対応することも可能。



<問題点>

 設計上の問題だが、キッチンタイマーの場合、前回のゲートが終了してすぐに次のゲートに入ることができない。これはアラームの停止→次の計時は、通常は人の操作で行うため(同じスイッチで)、チャタリングの防止ともあいまって、少し時間を空けなければならないことだ。

この「空ける」時間をインターバルと称しているが、(そのインターバルはU6で作成)その間のカウントは無効なのだが、カウンターの方にゲート(通常はANDまたはNANDゲートを設ける)を用いていないので、短時間の測定では測定誤差が大きくなってしまうことがあげられる。

 いずれは改善したい(初期の図面ではNANDを用いていた・・)。

 通常の周波数カウンターでは、ゲート中であることの表示として、LEDなどでゲート中であることを表示するランプがあるが、本機ではキッチンタイマーでダウンカウント表示しているので、わざわざその表示はつけていない。



○定確度計測

 定確度計測は、専用の回路例も出しているので、詳細に解説する必要はないと思うが、TC5032では15番端子~20番端子(CA1~CA6)が各桁の桁上げ信号(キャリー出力)で、図面右下のように74HC251またはディップスイッチで桁を選択し、微分整形して出力している。

とくに多機能化しなければ74HC251の必要はない。図面ではPCのマウスのみ書かれているが、ストップウォッチへの出力には先の回路図と同様な「2発パルス出力」が必要。

 CA1~CA6がそれぞれ10、100、1000、10000、100000、1000000カウント(確度誤差では31.6%、10%、3.16%、1.0%、0.316%、0.1%)に対応している。

**どうも定確度計測について理解されていない方がいらっしゃるようで、単に「情報をドブに捨てている」や「時刻情報の喪失は致命的」などの悪口が聴こえてくるが、定確度化することはラプラス変換でありポアソンの呪いを解く有効な1手段だ。

ならば、すべてのカウントをPCに取り込み算術的に効率よく呪いを解けばよいという意見もあるが、実際にセットを組んでみると、高レートになるほどに読み落としと時間軸精度が悪化してしまう。

「定確度」のミソは読み落としの無い「プリスケール(前置処理)」にあるといえる。実際に高確度(低誤差)になるほどノイズが抑制され、数値が安定することを実感していただきたい。**

 もし、2台のTC5032を連結し、12桁表示にする場合には、下6桁のTC5032の20番端子(CA6)から出力し、上6桁のTC5032の9番端子(カウント入力)へ入力する。リセットとトランスファーはそれぞれをパラレルに配線。



☆改良履歴とお詫び

 6月1日以前に公開していた回路(typf)は、モード切替部分の不具合により、マニュアルリセットが効かない問題がありました。これはより古いバージョンで、現在残しているモード以外の機能が搭載されていたのですが、その残骸が残ってしまっていました。また、その変更部分の修正が手書き図面のみで、公開版に反映されていませんでした。typ gで修正しました。お詫びします。

 6月1日以前の回路は2V~3.7Vの電源電圧を対象としていたのですが、やはり減電圧時(電池が減ってきた場合など)に動作が不安定であったり、表示が読みにくくなるなどの問題がありましたが、HT7737によるスイッチング安定化電源回路を採用することで、より低い電圧にも対応できる方が利便性があるということで、変更を行いました。(最低動作電圧:0.7Vに対応)

 回路図中の電源回路では、電池2本による給電+HT7737に変更しているが、電池部分各セルに並列にショットキ・ダイオードが並列に入っている。

これは電池セルが1本の場合でも2本の場合でも、自動的に切り替え、また、電池交換の際にも(電源を入れっぱなしで)、2本の電池を1本ずつ交換すれば、カウント数値や動作をリセットせずにリレー運用するための工夫です。つまり全電源喪失を起こさずに電池交換するためのアイディアです。

また電池が1本しか入手できない場合にも運用が可能で、その場合も取り立てて操作は必要ありません。ただし、使用可能時間は2本の場合の半分弱になります。