©Y.Utsunomia 2011

 発表している回路が、何度も変更になり、製作された方にはご迷惑をおかけしているかもしれません。

このあたりが「取り急ぎ発表」なのですが、いずれのものも試作ではうまく動作しており(参考で示した定電圧放電管のものとツェナーのものは、間違いがありました・・・)、多くの動作報告もいただいているのですが、やはりうまく動作させておられる方でも、絶縁性の確保で最初のうちはうまく動作できなかった方もいらっしゃるようです。

結局のところ高電圧・高インピーダンスに慣れていただくしかないのですが、何とか自動的にリークや多少の不具合があっても動作し、なおかつ診断が容易な回路を考えたいと日々努力はしているのですが、なかなか難しい部分もあります。

 もう一点、ガイガー管の検出頻度についてのダイナミックレンジ(低線量から高線量の幅)を拡大し、なおかつ必要最低限に消費電流を下げることも目標の一つです(これは高能率かつ高圧側を消費に合わせて安定化することと同じ)。

 現在、ネット上には多くの形式の高圧電源がアップされていますが、この点に着目している回路はあまり多くはないようです。低圧側の発振状態が固定の回路では、無駄な電力が大きいか、あるいは逆に高線量で電力不足になるパターンが多く、ひとつには低圧側の消費電流値で判断することもできます。

 発振状態固定タイプの私の回路は、「再現性重視版タイプA」として発表している回路で、この回路は多くの方が製作されているようで、報告も多く寄せられています。この回路は極めて消費電流が低く、3v印加で0.5mA以下になるはずで、想定カウント数はBG(20CPM)から3000CPM程度です。


「回路解説図」

 この回路の原型は秋月のキット(後期型)で採用されている形式で、C-MOS型555で発振しているように見えますが、555はリンギングのトリガーを発生しているにすぎません。リンギングとは寄生発振の一種で、高電圧に変換されているエネルギーのほとんどすべては、このリンギングで賄われています。

 実際に動作波形を観察してみましょう。

 555で作成されたパルス波(波形としてはドライバの2SA976のベース波形とほぼ同じ)の波形がこれです。上段がベース波形、下段がコレクタ波形。





 時間軸方向に拡大していきます。











このようにリンギングを観測できます。

リンギングというだけあって、ちょうど金槌(パルス波)で、鐘を叩いているようなニュアンスです。つまり鐘のカーンという音がリンギングなわけで、じょうずに鐘を叩く必要があります。叩いてそのまま金槌を鐘に押し付けたのでは鐘は鳴りません。叩いたときの跳ね返りを利用し、素早く金槌を離さなければいけないのです。

 このタイミングは、555からのパルス幅、100Ωと10μFとトランジスタの内部抵抗とスイッチング速度によって決まります。

このため、この回路ではそれに適した部品(コンデンサはタンタルまたは積層セラミック、トランジスタは低Vce satかつ低電圧高速スイッチング用の2SB976、・・多くのストロボフラッシュインバータ用トランジスタが使用可能=よい金槌)と短い配線を指定しています。

汎用のトランジスタではこのような効率は得られません。Power MOS-FETは有望ですが、ゲート電圧の問題で、この電源電圧では少々キツいようです。

 リンギングの周波数はトランスの巻き線、巻き線と並列の抵抗とダイオード、トランス2次側負荷で決まり、伝送効率の高い周波数に自動的に共振します。

リンギングは鐘の音の周波数であり、外から無理に決めようとすると、効率が低下(つまり鳴らない)、無駄な電力の消費になってしまいます。



 私の作例では多くの場合27KHz付近になりますが、トランスのロットが変わったり、配線の状態によっては多少の上下があるかもしれません。今回の試作で異様に高いリンギングのセットが1台ありましたが、それはコアに欠損(ヒビワレ)があったものでした。

 現在の「写ルンです」のトランスは低圧側のコイルがむきだしになっているため、巻き数を調整することが可能で、2Tまで減らすと同じような回路定数でも、容易に800~900Vが得られます。この場合でもリンギング任せなので、周波数は自動的に最適化され、大して効率は低下しないようです。

周辺定数が合っていない場合、波形がこのようなリリース(余韻)にならないので、容易に判定できると思います。そのような場合は波形をたよりに、最適化してみてください。

(ちなみに測定は高周波10MΩプローブで、オッシロは海外お出かけ用に購入したSDS200Aです。ソフト(あるいはデジタル)オッシロはあまり好みませんが、キャプチャーは楽なので、こんなときくらい役に立ってもらわないと・・)

参考までに高圧側の波形も掲載します。






*高圧側の測定は、10MΩプローブの先端に1GΩを直列に挿入しただけなので、電圧はやや低めに表示されています。


○高電圧安定化型

 まだ決定稿と言えない部分も残っていますが、現在アップしているものが最新となります。

 何が問題かというと、高電圧の検出そのものが、下手をするとガイガー管の電流消費より多くの電流を消費することで、本末転倒になってしまうばかりか、この検出抵抗が故障することも多く、そのため良い方法を思案するうちに改定の繰り返しになってしまっています。

 高電圧を検出し、設定より低ければ発振を強化し、高すぎれば弱める・・このようなフィードバックを負帰還(ネガティブ・フィードバック)と呼びます。負帰還は安定化の王道なのです。

 私の初期の公開回路図では、この検出によるロスが我慢ならなかったので、正帰還回路(ポジティブ・フィードバック)・・カウント結果に合わせて、使った分より少し多くを発振強化するような回路だったのですが、私の大きな誤算があり、結局引っ込めさせていただきました。

高電圧検出が無いので、当然ロスも無く、高効率を維持できるのですが、そもそもの動作状態(低線量時)のときにリークがあると、検出頻度が上がろうとしたときプラトー電圧を割り込むことがあることが判明し、しかもプラトーを一旦割り込むと、そのまま検出率も下がり続け、そのときに検出頻度が高いとさらに高電圧も下がってしまう・・つまり回路動作がダウン・・・正帰還の怖いところを地で行ってしまったわけです。リークの度合いは工作する人それぞれで、ちょっとタカをくくりすぎていました。

 基本的なセオリーでは、高電圧を高抵抗で受け、分圧し、基準電圧と比較し、高電圧が低ければバーストの頻度を上げ、高すぎる場合は減らすというものです。

しかし、必要な高抵抗は1000MΩ(1GΩ)以上で、その抵抗値でもBG時には管の消費電流よりも、検出抵抗の方が多くの電流を消費しています。また、そのように高い抵抗値の抵抗は非常に高価である上、容易に入手できず、しかも定格上もその電圧の印加には耐えられません。

ガイガー管のアノード抵抗には10~20MΩを平然と使用するくせに、検出抵抗では使用できないのです。それは、印加が瞬間サージか、連続かの違いです。短期間で、しかも高電圧がかかっているときだけ抵抗値が低い方へ変化(要するに内部で放電している故障)状態になることもよくあります。

 最新の私の回路では、高電圧の検出にバリスタという部品を採用しています。この部品の動作メカニズムははっきりとは解明されていないそうですが、そのバリスタの動作電圧以下では極めて高い抵抗値を示し、しかも連続した高電圧の印加に耐えられる、最も有望な部品として注目しています。

 絶縁抵抗計で測定してみると、測定限界である2000MΩをはるかに超えています(正確なところは把握できていませんが、大変高いとは言えそう)。

 この動作電圧以下の振る舞いは重要で、ツェナーダイオードや高耐圧のトランジスタなどでは、とてもそのような絶縁抵抗値にはなりません(せいぜい数百MΩ程度)。このような評価は実際に高電圧を印加して、抵抗値測定(絶縁抵抗計)で行わねばわからないことです。

 逆に絶縁抵抗値の高くない部品で高電圧検出している場合、安定化できても検出そのもので相当にロスしている可能性があるので、高効率化できないのです。

 バリスタの場合、動作電圧以上で急速に内部抵抗が下がる動作をし、ニュアンスとしては定電圧放電管のようなもので、メーカーの規格表にもその電圧のことを「放電開始電圧」と表示しているものもあるほどです。

 回路例ではバースト頻度を決定するR2(1MΩ)と並列に、PNPトランジスタ、ダーリントン接続のスイッチが、高レート時制限抵抗33kΩと直列に入っています。

 起動時(高電圧が溜まっていない、あるいは設定電圧より低い場合)にはバイアス抵抗1MΩ(図面上は高圧側に配置している)により、ダーリントンスイッチはONになっていて、555は高レートでパルス出力を行う。

 高電圧がチャージされ、バリスタの動作電圧に達すると、バイアス抵抗の上端には電圧が現れ、その電圧がVcc-0.7vX2に達すると、ダーリントンスイッチは徐々にOFFになり、555の発振周波数は低下し、一定のところで均衡に達する。

 現在の回路の問題点は、均衡に達したときの電流値が、まだ十分に低いとは言えないことで、今後改善していく予定です。しかし、万一この負帰還が破れた場合でも、バリスタそのものの抵抗値低下により、オーバープラトーを防ぐ効果も期待できるかもしれないが、それを望むならプラトー上限+30Vの動作電圧の別のバリスタを管のアノード/アース間に入れるべきだろう。現在の図面で入っていないのは「様子見」のため。

 「放射線量計を作ろう、番外」で動作している高圧電源がこの回路で、20CPM~30000CPM程度まで安定に高電圧供給できていますが、実際に高線量の長時間連続動作の実績はこの撮影時に6時間10000CPM~15000CPM動作したのみです。

ちなみに低圧側の消費電流はBGで0.1mA、15000CPM時に10mA程度でした。(HV=350v、R_anode=20MΩ、Vcc=3.7v・・・HT7737使用のため)


☆動作状態の診断

 555の発振周波数を測定することで、どの程度のリークがあるか、またリンギングの状態が正常かどうか(こちらはできれば波形チェックしてほしいところ)を判定できる。

 もしリークが無く、リンギングが盛大で、高圧ダイオードがうまく整流できていれば、発振周波数は20Hz以下になり(GM管無接続)、リークの度合いに応じて発振周波数は上がっていきます。ただ、セラミックイヤホンなどを直接555の3番端子に接続すると、波形が変化してしまい、2SB976のスイッチングが正常に行われなくなってしまいます。

セラミックイヤホンを接続する場合は直列に10KΩ~100KΩをつなぎ、3番端子から見たときに、容量性を少なくしておく必要があります。オッシロとプローブをお持ちの方は、X10、ハイブランチ状態で観察してください。

 PCしか無い場合は、WaveSpectra.exe(efu氏作、フリーのFFT)または、VisualAnalyser(Sillanum Software、フリーのFFT、周波数カウンター)を使用し、PCのマイク入力から信号を入力しますが、同様に直列に100KΩ~1MΩを入れて使用します。(ただし、FFTそのものは周波数精度はあまりよろしくありませんが、目安にはなります。またリンギングの観測は48KHzfsの1/2以上になるので、観測できません)

 GM管を接続しない状態で100Hz以上になる場合は、回路の高圧回路の各部品を無水アルコールなどで(マイクロファイバ布や綿棒などを使用。絶対に素手で行わないこと!!)拭き清め、様子を見ます。拭いた直後はアルコールに含まれる微量の水分や気化熱で付着した空気中の水分によって、逆に悪化することが普通です。

乾燥を待たなければわかりません。本文を参照下さい。しかし100Hz程度ならそのまま使用することは可能ですが、300Hz以上に跳ね上がっているときには検討を要します。

 GM管を接続し、カウントが数百CPMになると(ランタン・マントルなど・・私が試験に使用しているスウェーデン製のものは3000~5000CPMにもなる)、カウント数に応じて周波数が増大します。

 GM管を接続しただけで、ほとんどカウントもしていないのに、555の発振周波数が跳ね上がる場合、おそらく管そのもののリーク、あるいは管の外壁のリーク、管への配線やレイアウトによるリークなどが疑われます。絶縁のつもりで、ビニールテープなどを巻きつけると、たいていはそこがリークの原因です。徹底的にノリを除去してください。

絶縁に使用できる素材は、粘着のないスチロール(発泡は不可の場合あり)ガラス、絶縁性の規定のあるエポキシ、メタクリル樹脂、ポリプロピレンシートなどで、ポリカーボネード、ナイロン、シリコン(ゲル~)、などは要注意です。テフロンは高絶縁場所にも頻繁に使用されますが、固有抵抗自体はやや低めです。あまり知られていないことですが、シアノアクリレート(アロンアルファなど)は、架橋中(固まりつつあるとき)には一時的に良導体になることがあるので要注意です。

 先に消費電流測定でもある程度の判定ができると記述したが、回路が正常動作していれば、発振周波数と消費電流は比例関係にある。自己診断またはステータス表示として、電源電圧の表示とともに付けておきたい機能だ。



○トランスの耐圧について

 「写ルンです」のトランスは古くから使用させていただいていて、コンデンサスピーカーの励起用(350v)として15年以上も活躍していますが、いまだに不良はほとんどない(ターミナルの割れは何例かあるが)ので、耐圧や耐久性を心配される方がいるようですが、無理をしなければ十分永年の使用に耐えると思います。

補強方法の一つとしては、低粘性エポキシで、減圧モールドするとターミナルの補強にもなり耐久性の向上も期待できると思います。

私の愛車(HONDA SL90)は、発電電装系は3系統(保安、CDI、ヘッドライト)独立に改修していますが、3系統で互換性を持たせるため、共通の巻き数にしてあり、CDI系は200v動作させるためにトランス昇圧しています。

耐圧を大幅に超えていることと、バイクは基本的に雨ざらしなので、トランスを低粘性エポキシで減圧モールドしたのですが、31年経過した今日でも問題なく動作しています。



☆諸見

 現在では多くの作例がインターネット上にありますが、実際のところどの程度の線量ダイナミックレンジがあるのだろう。また、消費電流(効率)との兼ね合いはどうなのだろう。興味の多くは、シーベルトへの変換やログ機能、PCとの通信にあるように見えるが、私は依然として高圧電源の改良やカウント確度の向上にいそしんでいる。

私的感想では、それらの回路での線量ダイナミックレンジが十分に確保されているようには思えないし、ある程度確保されている回路では低線量時の効率があまりよろしくないのではないかとも思えるし、私にはこの問題だけで結構大変だったりしている。

 一つには線量の上限設定が、比較的低めに設計されているのではないかとも思うが、私が最近体験したPET/CT検査では、皮膚表面で150μSv/h以上の線量が観測(実際にはもっと高かったのかもしれない)されたので、これも身近な線源と考え、300μSv程度までは十分な確度で計測できる必要あるように感じた。

私の場合、この線量でも高電圧の供給も、カウントも十分に余裕があったが、管そのものの動作がダイナミックス的に非直線領域に入っていたようで、改善の必要もあるのだが、カウント数の多さからは、その線量に応じた検出率の管を使用するほうが「余裕」があるように思われた。

 この問題を解決するには、1mSv/h程度の高線量での動作確認が、ぜひとも必要に思われるのだが、他のビルダー諸氏はどのように考えているのだろう。