<IRC_front_view.jpg を参照>
○仕様・目的
各種の赤外線リモコン装備の機器の制御コードを、PCベース録音再生ソフトや録音再生実機で、
録音再生や解析・編集を行うためのハードウェア
バッテリー動作、簡単操作
被制御機器、制御機器ともに無改造
高応用性

○製作背景
 筆者が録音制作作業などで録音再生実機に、近年HD24を用いていることは別稿でも述べたが、アナログハイエンドスタジオ機器からの移行にあたり、各種の周辺機器の開発と製作を行ったが、その一つがこの装置だ。

 アナログ時代にはあれこれ工夫で、各種の周辺機器の制御を行うことができた。
例えば、テープの音声トラックに各種の制御信号やタイムコード(最も有名なものはSMPTEタイムコードなど)を入れることはおろか、テープ裏面にダーマトグラフと呼ばれるペンで、手書き記入したマークを光学読み取りしたり、箔センシングと呼ばれる方法では、アルミニウム箔などを貼り付け光学的あるいは直接接点で読み込んだりしていた。

 これらの信号は、周辺機材の制御に用いたり、レコーダーそのものの自動停止や自動頭だしに使用されたりしたが、デジタルに移行し、テープには物を貼り付けられなくなったし、制御信号の多くがシリアル通信となったため、簡単にはこれらの機能増設ができなくなり、また制御にPC(当時はZ80、i8086が主流)を用いざるを得なくなった。

 もちろん制御コードを用いることで、見かけ上はより高機能に、高精度に作業を行えるように見えたが、必要な手続きは確実に増大し、十分な準備がなければ現場でのインスピレーションに耐えられるものではなかった。
<つまり高度化したためにツブシが効かなくなったわけだ>
また、高度制御のわりに、意外と確実性や精度が悪かったり、動作条件が厳しかったり、引き換える損失が大きかったり・・現在でも状況はあまり変わっていない。<<これらの機材は、使用者のインスピレーションを助けなければならない使命がある>>のに、現実は必ずしもそうではなく居心地が悪い。
 
 もちろん得られる結果は重要だが、そこに至る思考を助けてくれなければ、使用する意味が無い。

  本機の直接的な目的は、ALESIS社HD24ハードディスクレコーダーを再生装置に、CDレコーダーを録音装置として、無損失でCDDAを作成するための補助機能として設計した。もちろん主役は無損失でA-DATオプティカル信号をSPDIFに変換する部分なのだが、CD固有の各種の信号やトラックマーク、さらにはスタート、停止、必要ならファイナライズもHD24から指示することができ、そのタイミングもHD24の最小編集単位(デフォルトで1/3000秒)またはサンプル単位で調整ができなくてはならない。(マスタリングなどでは、こうして制作したマスター原本から等速デュプリケーターでディスクアットワンス変換したものを、プレス用原本とすることを想定しているが、このプロセスは最上位の品質を要求されたときのみ使用・・下記参照)
 今時こんなシステムは時代遅れとも指摘されることがあるが、完成品の音がそのような指摘をすべて排除してくれている。


事情
 CDオーディオプロトコルの解釈の問題ではあるが、本来CDオーディオとはCD1枚通しの単一ストリームであり、その中に情報の不連続や分岐は許されない(後に拡張されているが)。

 例えば3分の曲が14曲、1枚のディスクに入っている場合、それぞれの曲が独立したファイルであろうと、単一ストリームの中にある13の区分であるかは、その再生において大きな問題の原因にはならない。しかし長尺のライブアルバムや、オペラなどのように、CD1枚通しで音楽的、音響的に連続しているソースで、単に区分としてのトラックマークが点在する場合はどうだろう。現在の一般的な編集システムやマスタリングのセオリーでは、音楽・音響的に連続していようと連続してなかろうと、トラック毎に分割作成処理し、整列し、焼き込み時にバイフェーズ、インターリーブ変調上のつじつまが合わされ、連続したものとしてストリーム相当のものとしてメディア上に固定される(この連続したもの「相当」が問題)。

 3分の曲が14曲の場合でも、その曲間のタイミングや意味を考えると、同様の問題がある。書き込み変調上のつじつまが合っていればそのことが連続性の確保であると言う考え方は、論理の上では理解できても、筆者には何とも「気持ちが悪く」てしょうがない。

 実際にCDプレーヤーで1倍速再生し、SPDIFでWAVファイル化したものと、トラック毎にWAVリッピングしたもとを、トラックマーク近辺の比較を行うと、上記の作成方法の違いによるサンプル数の差異が表れる(つまりトラック毎に分割し統合焼き込みしたものでは、音楽的・音響的には連続性が保障できなくなっていることを意味している)。古来よりのCDプレーヤーによる再生と、DVDプレーヤーやPC+ソフトウェアによる再生では相違が現れやすく、ましてやトラックを越える巻き戻しにも対応できない。

 この連続性と品位の保障には、本来のU-MATICマスター相当の工程セオリーを経ることが適切と筆者は考えている。
 ただプレス工場によっては、せっかくのワンピースプレスマスターなのに再びトラック毎に分解し、金型作成するところもあり、プレスする場合には工程確認を行った方がよいだろう。このあたりがCDオーディオ専用ラインを持つか、CD-ROMの片手間でCDDAを作成しているかの違いだろう。専用生産ライン(金型作成プラント)は急速に減少しつつある。


 HD24での他の機器の制御は、一般的にはMIDIタイムコードなどからイベントを定義し、間接的に制御することになるが、まず間接的であり意外と確実性が得られないし、MIDIという全く異なる操作系を挟まなければならない。また、制御のコマンドそのものはHD24上には無く、制御可能な機器も限られる。Adams Smith社製ZETA3シンクロナイザーなどでもメカニカル接点出力があるので、同様の制御をSMPTEベースでできるが、制御される機器(この場合はCDライター)側を改造しなければならない。
 簡単なのは、赤外線リモコンの発する制御コードをHD24に記録し、通常再生し再現できればそれらの問題は一挙解決する。CDライター側の制御コードに対する反応時間はあらかじめデータ収集しておく必要がある。

 類似の機能に「学習リモコン」ハードやPC上で動作する、ソフト「学習リモコン」もあるが、いずれにしても、受信・送信ハードを何とかしなければならない(一部のノートPCなどには内蔵されているが)し、HD24とPCの同期の問題がある。やはり簡単確実なのは、HD24上の通常トラック上に直接制御コードを音声信号として置くことだろう。
 例としてHD24を上げたが、非圧縮の録音再生ができる機材なら、それがハード実機であろうとPC上のソフトであろうと無関係に使用できる。
*ただし、レコーダーへの音声入出力レベルがHD24を前提に設計しているので、使用する機器によってはレベルが許容範囲に入らないかもしれない。その場合は、アンプを追加するなどの処置を追加の必要がある。

 

○応用
制御対象はCDレコーダーに限ったわけではなく、オーディオからエアコンに至るまで何でも可能で、各種のイベントやパフォーマンスショーに至るまで、何にでも利用可能だ。
ただし赤外線コード出力は、このセットでは最小限に限定し、制御対象の受光部に貼り付けて用いる仕様になっている。これは大出力にすると、本機による制御ではない、無関係の機器のリモコン操作を阻害する可能性があるからで、一部屋全体に制御を行き渡らせたい場合はレピータ(あるいはブースター)などを追加し、大出力化する必要がある。

 

○本装置ハードで対応できないケース
赤外線リモコンコードは、単なる制御コードではなく、制御を攪乱する蛍光灯の発光などに対応するため、「キャリア信号」に乗せて、変調した形で送受信されている。本装置ではこのキャリア信号に38KHzを採用したもののみに対応しており、このキャリア以外のリモコンフォーマットには対応しない。その場合でもそのキャリア周波数を割り出し、回路上のキャリア発生回路の周波数を変更すれば、対応可能になるだろう。

 

○回路解説
<IRC_inside1.jpg を参照>
<IRC_inside2.jpg を参照>

 当時の手持ちの部品の有り合わせで作ってしまったので、少々反省すべきところがあったりするが、適宜アレンジしていただきたい。
(多少再現性が悪く、不安定な部分や、調整がクリティカル(微妙)な部分があります)

 画面上半分が赤外線リモコンが発した制御コードを受信し、音声信号に変換する部分。画面下半分が、レコーダーが再生した制御コードを波形整形し、キャリアに乗せて送信する回路だ。

 IRRXという部品キャラクタは、赤外線受信モジュールとして販売されている部品で、各種のものが使用可能。ただし受信が38KHzに対応しているかどうかは、この部分の問題で(普通は38KHz)、それ以外の場合は、そのキャリア周波数に対応したモジュールを使用する必要がある。
また、廃棄機器の残骸から外して再利用するのも良いだろう。この部品はパーマロイ(鉄系)金属のケースに収まったものと、フォトトランジスタのような部品パッケージの場合があるが、どちらでも使用できる。
普通は電極は3本なので、間違えないように配線するが、金属ケース入りの場合、外ケースの金属もきちんとアースに接続しないとうまく動作しないことがある(外乱ノイズに対して敏感)ので注意。足(電極)が見分けられない方は、新品購入をお勧めします。もちろん足の出方のデータ付きで。

 IRRXの出力は、デジトラ(10K/10Kなど・・なければ汎用小出力のトランジスタ2SA970など)でバッファーされ、抵抗によるブリッジとコンパレータ動作のOPampで波形整形。コンパレーターはちゃんとコンパレータを使用すべきですが、本機は低速なので。
 次にその出力はU1bでバッファされ、ゲートを構成。つまり信号があるときのみ4066 C-MOSスイッチが開き、信号が無いときは4066が閉じているという動作。図面右側に各チェックポイントの波形を示した。制御コードそのものは相当に低速レートなのだが、音声信号として録音するには、「交流音声信号」にしなければならない。つまり、0Vと+何Vかの振幅では、+側に波形が偏り、オフセットされた状態で録音されてしまい、その信号は微分され記録。再生時にさらに微分されるため、再生時に強力に波形整形しても「使える信号」には復元できないのである(タイミングが微妙に変化するため)。
 本機では信号が無いときにはゲートOFFで0Vを出力、入力が到来したところからゲートをONにし+側と-側に同じレベルでスイングするように工夫している。
 正負対象波形を作るためにDC-DCコンバータを使用して、-側を作っている。もったいない話だ。DC-DCコンバータを使用しているのは、赤外線コードを受信受信しているときだけで、この受信モードでは、消費電流が比較的大きい。トラックマークなどは、一度受信し録音したら後はコピー&ペーストで作業する。
 LEDの点滅は信号を受信していることを示している。

 IRTXはレコーダーから再生された制御信号から、もとの赤外線制御コードを復元する回路だが、後から考えてみるとあまり優秀ではないかもしれない。1段目を直流増幅にしたのがまずかった。
 U2aはレコーダーからの信号のプリアンプで、利得は100KΩの半固定で調整する。10KΩの半固定と合わせて、波形が再現できるように調整するが、10KΩはほとんど絞りきりでよいだろう。アースから10%~20%の位置でよいが、レコーダーの残留雑音の影響を受けて不安定にU2bの出力がふらつく場合はさらにVcc側に調整する。100KΩ半固定はその後に波形が正常に検出できるところに設定する。100KΩには数値下限設定(この場合は1kΩ)が付いていないので、絞りきり(0Ω)にしないこと。U2bはコンパレータ動作。

 その下の回路が本機の最大の反省点で、この通りに作っても動作はしますが、調整が大変です(大変微妙)。
そもそもこの回路で直接38KHzを発振したのは、たまたま手持ちにFM放送のマルチプレクサ用の水晶振動子があったからで、普通はこんな低い周波数を直接発振はしないものです。確実に動作させ、調整を楽にしたい方は、9.728MHzあたりの水晶を使い、バイナリカウンタで8段
程度、分周(1/256)するのがまっとうです。
(できるだけ正確に38KHzを得る必要があるので、適当な近似数値の水晶は使用しない)

 調整は10PF半固定で行いますが、オッシロスコープや周波数カウンタ(周波数表示のできるテスターでも可)を見ながら調整。
 キャリアに乗せた信号は74HC00のパラレルドライバで赤外線LEDを駆動します。十分にパワフルではありませんが、赤外線LEDをビニールテープなどで制御対象の機器の、赤外線受光部に貼り付けて使用する想定なので問題ありません。新規に作る場合は、74HC00ではなく、74AC04の6パラレルの方が良いでしょう。

○DC-DCコンバータは+5V入力、-5V出力、出力は50mA程度あれば十分です。
電源は単3電池4本ですが、3端子レギュレータにロードロップの4805を使用しています。通常の7805では電圧のドロップが大きすぎるので使用できません。また安定動作のためには、できるだけACアダプタなどの使用は避けてください。
<IRC_bottom_view.jpg を参照>
<IRC_inside1.jpg を参照>

○電源スイッチはセンターOFFステップ付きの1回路2接点型で、受信と送信は電源そのものを切り替えています。電池動作なので、リモコンからの受信時は多少消費電流も大きく、送信時は低消費電流になっています。そのため4805をそれぞれに配しています。もったいない!

*本機で使用している38KHz水晶振動子を読者プレゼントします。詳しくは当サイトのインフォメーションを参照下さい。