トラック数とdBの知識(クリップとの付き合い方)                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010 ver,1.3.8以降を使用する場合は、後部にジャンプも可。 「バランスとミキシングの心得」の項も参照  音響実務系の学生が最も苦手としているものにdB(デシベル)がある。  倍率   dB(電圧比 : Y=20logX) 簡略値(dB)      使用者の暗記の必要 1/100 -40.0 dB JUST -40             ◎ 1/10 -20.0 dB JUST -20             ◎ 1/4 -12.0412 dB -6dBの2倍=-12dB         △ 1/3 -9.542425dB -10              ○ 1/2 -6.0206 dB -6             ◎ 1 0.0 dB JUST 0              ◎ 2 6.0206 dB 6             ◎ 3 9.542425dB 10              ○ 4 12.0412 dB 6dBの2倍=12dB          △ 5 13.9794 dB 14 6 15.563 dB 2倍X3倍=6dB+10dB=16dB     △ 7 16.902 dB 17 8 18.0618 dB 2倍X2倍X2倍=6dB+6dB+6dB=18dB △ 9 19.08485 dB 19 10 20.0 dB JUST 20             ◎ 16 24.0824 dB 24 27.604 dB 36 31.126 dB 100 40.0 dB JUST 40             ◎ 1000   60.0 dB JUST 60             ◎ 10000 80.0 dB JUST 80             ◎ 100000 100.0 dB JUST 100            ◎  もっと正確に「倍数/dB」の変換を行いたい場合は、関数電卓ハードか、関数電卓ソ フトを用意すべき。計算は Y=20*logX X=倍数 Y=dB で求めることができる。関数 電卓ソフトのフリーウェアとしては imemo.exe 桝岡氏作 を推奨しますが、文系の 方には関数電卓ハード「EL-501E、シャープ社製、実売1000円程度」を推奨します。 **どんなときに必要か(トラック数との関係例)  ver,1.3.8から内部演算処理が完全浮動小数点になったため、ver,1.3.8以上を使用す る場合、意味が変わったことに注意。 Q )複数トラックをミックスしたらクリップしてしまったが、そのバランスを維持した ままで(=全てのトラックを)何dB下げればクリップしなくなるのか。 A1) もし全てのトラックのピークが(あるいは波形が)一致しているなら、トラック  数の倍率のdB分(上表参照)、全てのトラックのレベルを下げれば、クリップを防ぐ  ことができる。   例えば2つのトラックにフルスイングの正弦波が録音されているとして、その2つ  のトラックをミックスする場合、両方のトラックを-6.0207dB(-6.1dBで代用可)下げ  れ ば、クリップは発生しない。  同様に3つのトラックなら-9.542425dB(-10dBで代用可)下げればクリップは発生しな  い。  10のトラックなら、全てのトラックを-20dB下げる必要があるが、一般的な音楽信号  ではそこまでピークは一致しないのでそれほどには下げる必要はないが、理論値では  -20dB下げなければならない。 ○ 電子音楽的には上記のように、トラック数から算出される理論値どおりに各トラッ  クのレベルを下げ、ミックス後のレベルが低すぎる場合は正規化(ノーマライズ・・  増幅コマンドで可)を行う。 A2) 現実的には使用するトラックの数ではなく、同時に音が重複する最大のトラック数  で見積もる。例えばドラマや映画の台詞のように、トラックは多いが、音は交互にし  か出ない場合、仮に一箇所の重複も無いなら、何百トラック使用しようとまったくレ  ベルを下げる必要はない。そう考えると、すべてのトラックのスライダーを連動させ  る「マスタースライダー」が欲しくなってしまう・・・。 実)audacity ではトラックの左側にあるスライダーを調整(またはスライダーノブを  ダブルクリックすることで、数値入力可能)することで、それぞれのトラックのレベ  ルを調整できる。  このスライダーはミックスバランスのためではなく(それにも使用できるが)、この  ようなレベル整合のために使用するもののようである。   このトラック左側にあるトラックレベルのスライダーの処理優先順位は、ファイル  書き出し前(ミックス前)、再生前なので、ミックス時のクリップに対する効力はあ  るが、各効果処理よりも後なので、各効果でのクリップに対しては無力だ。   各効果でクリップが生じる場合は、効果の前に「増幅」コマンドで必要量下げる必  要がある。アナログの時代を手本にするなら、各トラックの通常の最大レベルを  -12dB程度に設定すべきだろう。(ただしaudacityにはその概念が希薄なので、波形  表示やスペクトログラム表示が見づらくなってしまう・・・見易い表示にするには、ク  リップしない範囲でできるだけレベルを上げる・・・正規化あるいは増幅) **重要     (「Master Fader は何処」を参照)  実はこのあたりが一般的なDAWではいい加減な設計になっており、某業界標準機(?)  などに至っては各トラックの録音レベルそのものを、使用するトラック数を考慮し、  十分に下げておかなければ、マスターフェーダ以前でクリップを起こしてしまう。  audacityについているような各トラックのレベル調整(フェーダーではない。フェー  ダーに相当するものはエンベロープツール)に相当する操作系が、世のDAWにあまり  付いていないのはいったいどういうわけだろう。(マスターフェーダーを絞っても  何の解決にもならない・・・なぜならオーバーレベルを起こしているのはマスター  フェーダ以前の、サミング部分だからだ)  (DAWの中にはサミング・ゲイン調整を備えたものもあるので、その場合は上記のよ  うに設定を行う)   audacityの操作系は面倒な一面もあるが、このように備わるべきものがちゃんと備  わっているので、正しく理解運用したいものだ。反面、何の意味もない(アナログ時  代の亡霊としては意味があるが)マスターフェーダなど最初から付いてはいない。  audacityの作業でのマスターフェーダ操作は、一旦2ミックスを作成し、そのトラッ  クに対して別途マスターフェーダ操作を行う。(アナログ時代から録音専用ミキサー  では、マスターフェーダの使用方法はフェードイン/フェードアウトなどに限られ  る。通常はユニティーゲインである「0dB」を死守しなければならない。逆にPA用途  のミキサーのマスターフェーダーには、明確なユニティー表示が無いものが多いが、  このあたりでミキサーの設計を見抜くことができる。   この一連の文章は「電子音楽」にかこつけて作成されているが、実際に上記のよう  なまっとうな機構が付いていなければ「音の品位」を保った作業はできない。なぜな  ら電子音楽においてはすべてのトラックにフルスイングの正弦波が並べられることな  ど当たり前だからだ。その意味では一般的DAWでは電子音楽は「対象外」なのかもし  れない。 ★ver,1.3.8以降では内部演算処理が完全浮動小数点になったため、上記の計算は実務 上不要になってしまった。つまり多数のトラックをミックスした結果、クリップが発生 しても、ファイル書き出し前なら「増幅」コマンドを実行することで「クリップした後 から」そのクリップを無かったことにできるようになった。ファイル出力する場合も 32bit floatで出力すると、後からクリップを無かったことにできる。ソフトの進化と 言えばよいのか、怠惰の助長というべきなのか・・・。便利にはなった。  逆に故意にクリップを活用する場合、例えば「ノーマライズとS/N比」の項の後半に あるような手法・・・一旦クリップさせ、その後に0.1〜1dB程度レベルを下げて、物理 飽和を避ける手法・・・・を使用する場合、ver,1.3.8以降では何の意味も無く、物理 飽和が残ってしまうのである。この手法はCDのマスタリングでは極めて多用される (市販のCDを参照)が、ver,1.3.8以降では少々作業が面倒になる。  具体的にはクリップさせるところまでは同じなのだが、その後一旦、非浮動小数点形 式でファイル出力し(クリップを確定し)、そのファイルを読み込み、「増幅」などの コマンドを用いて0.1〜1dB程度レベルを下げるのであるが、どのような理由か未解明で あるが、ver,1.3.8以降のクリップはなぜか音が汚い傾向がある。決して音色を劣化さ せるためにクリップを使用するわけではないので、このような作業を行うために ver,1.3.7以前(公式安定版のver,1.2.6の使用も有効)のものも併用すべきかもしれ ない。確かにベータ版であるver,1.3.xではどれもあちらこちらにバグがあり、ベータ 版しか装備しないことは危険かもしれない。 ☆ver,1.3.7あたりから故意にクリップを確定するために「clip fix...」が効果に装備 されてはいるが、若干意味が異なるような気もする。 ☆プラグインエフェクトは、ver,1.3.8以降の完全浮動小数点に対応しているものとして いないものがあるので注意する。 例えば、内蔵エフェクトのフェーザーでは対応しておらず、容易にクリップするが、後 からの「増幅」実行ではクリップからの回復はできない。UNDOのしてレベルを「増幅」 などで下げてから、エフェクト処理しなければならない。トラック左側のレベルスライ ダーはエフェクト処理には影響を与えないので、ここで絞ってもクリップ回避はできな い。 同じフェーザーでも「Blue Cat VST」のフェーザーでは、後から「増幅」でクリップ回 避可能だ。