ポータブル・レコーダーとの連携 1 改訂2011_11_23                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010  昨今フラッシュメモリーカードを記録媒体に用いたレコーダーが市場を賑わせてい るが、その中には単なる2チャンネルステレオ録音だけではなく、4チャンネル同時録 音の機能や、MTRの機能を備えたものがいくつかある。同時に5トラック以上にアクセ スできるものはあまり見られないが、同時アクセスできる4トラックのうち最大2トラ ックが録音、残りが再生で、同時アクセスできないまでも同期したストックトラック (メーカーではそのように呼称していないが)が99000トラック(フラッシュメモリ ーの容量により制限はあるが)作成できる。  ポータブルMTRの例としては、ZOOM社のH4、H2、H4nなどがこれにあたるが、連携と 言っても特別な設定があるわけではない。運用上の工夫である。 (これら機種を例として挙げていることの説明は、この項の巻末)  audacityはノート型のパソコンでも十分に機能するが、ポータブルMTRとノート・パ ソコンを比較することはあまり意味を持たない。比較するまでも無く消費電力とOSの 専用化において、機動性、動作安定性など、録音機としての能力は専用機であるポー タブルMTRの性能は圧倒的だからだ。とくに電源事情が厳しい野外やステージでの制作 ではその差が拡大する。  根本的理由であるOSの専用化についてであるが、audacityは非破壊編集を実現する ため、Windows OSに加えaudacity独自の断片化で対応し、ポータブルMTR(少なくと も先の例のH4/H4nでは)断片化無しのストリーミング記録のOSを採用している。同様 の条件下では、断片化の有無はそのまま記録品質(ジッター、ファイルの堅牢性など) と信頼性に影響を及ぼすと考えてよい。(「ストリームとファイル」の項を参照)  逆に編集やファイル操作においては、この断片化が優位性を与える。レベル正規化、 イコライゼーション、ファイルフォーマット変換やファイルの管理では断片化OSは 圧倒的能力を発揮する。餅は餅屋だ。「録音」そのものと「編集・操作」がそれぞれ 要求する能力は相矛盾するのだ。  このことを念頭に連携を考察する。 ○そもそもMTRとはどのような背景で誕生したのか  歴史的に考察すると、MTRは音楽産業の所産ではない。なぜなら、本来音楽業界には 「パートごとにばらばらに録音する」という発想は無く、鑑賞に堪えうる音楽は「ワ ンピース」の演奏、「同時性」を備えていることが「正しい」と考えられていた。 今日から考えると信じられないような考え方なのであるが、このワンピースで同時性 を備えていないものは邪道とされ、かのヘルベルト・フォン・カラヤンが自らのレコー ド制作に「編集技術」を用いている、と公言したことが全世界をパニックに陥れたこ とからもその重大性をうかがい知ることができる。  ポピュラー音楽においても事情は同様で、「売るためには手段をいとわず」な業界に おいても編集や影武者を用いても「パートごとにばらばらに録音し」「ミックス」作業 で作品を作り上げるという発想は1970年頃までは一般的ではなかった。  映画産業において、トーキー(トーキーとは音付きという意味で、それ以前はサイレ ント・・・台詞も音楽もなく、全ては字幕か語り部か・・)が採用された1927年(ジャ ズシンガー 米 または1929年ニューヨークの灯 )にはマルチレコーディングの必要 性が訴えられ(つまりMTRの開発要請)、その数年後には現場投入されたとされる。  映画において、撮影現場は大変騒がしく(大道具を動かしたり、送風機をまわしたり 監督が怒鳴ったり・・)同時録音された音は使い物にならず、アフレコ(撮影・編集後 に台詞や効果音や音楽を、画面と同時録音された音を聴きながら付け直す作業)の必要 があり、これが映画産業の死活問題だったのである。アフレコ(MTRを用いた)が自在に できるようになったときに、その成果はミュージカル映画として結実する。相当後年の 作品ではあるが、かの有名な「サウンド・オブ・ミュージック」の冒頭シーンを思い浮 かべて見よう。ヘリコプターからのショットで主人公マリア(ジュリー・アンドリュー ス)の独唱で始まる。同時録音にはヘリコプターの爆音しか録音されていないはずだ。  一方、音楽産業においては「レス・ポール」氏のMTRパフォーマンスショーなどがある ものの、実際に録音に用いるか否かの議論は1968年まで実を結ぶことは無く、ビートル ズの「レット・イット・ビー」の録音において公開実験がなされた。アルバム・バージ ョンはフィル・スペクターがアビーロード・スタジオで従来からのピンポン録音で行い、 シングル・バージョンはジョージマーティンがアップル・レーベル全額出資のマルチ 録音スタジオで制作された。レコード会社であるEMIにはMTRを導入する必要性もその 度量も無かったのである。(このあたりの経緯はジョージマーティン著の「耳こそは すべて」に詳しい)この時代までMTRは映画専用の機材であり、それよりも経済規模がは るかに小さいレコード産業には無縁であった。レコード会社に必要なのは、数台の高品 位の2トラック・ステレオレコーダー(中には隠し玉として3トラックマシンも使用され た)と、優れたマイクロホン、演奏のためのホールがあれば十分だったのである。  わが国に至っては、同時期レコード会社間で「MTRを導入しない協定」まで取り交わさ れた。この出資が業界全体を危機に陥れるほどの規模であると判断されたからだ。しか しそのような協定は、レコード会社と直接経営的につながりの無い、独立系スタジオが MTRを導入したことで、1年を待たずして無効となる。  本稿は「電子音楽」を取り扱っているが、「電子音楽」のピークは1970年に大阪で開 催された「日本万国博覧会」ころにあり、それ以降は急速に衰退の道をたどる。「電子 音楽」も音楽を名乗る以上、MTRの導入には消極的で、筆者が確認した限りではこの万国 博覧会において2台の6トラックMTR(しかもピンク色)が試作投入されたのが唯一である。 (この2台は万博以後、九州芸術工科大学に移管し、その後筆者の勤務する大学の電子音 楽スタジオ(NHK電子音楽スタジオのレプリカ)に移管。筆者のヘッド再研磨を含むフル ・オーバーホール後、このスタジオの改修に伴い、附属資料館の地下倉庫に現在も眠っ ている)要は「電子音楽」において公式にはMTRは導入されてはいないことになる。 (万博において先のピンク色の6トラックMTRは単なる「出力デバイス」としてしか使用 されていない)ならば、黄金期の「電子音楽」多チャンネル多元作品は如何にして出力 されていたのか・・・多数のモノまたはステレオ・レコーダーを非同期並列運転してい たのである!  従って「電子音楽」をモデルに「ポータブルMTRとの連携」を論じることはできない。  ならばポップスをモデルに論じたいところなのであるが、これも発想の上から論じる ことは無意味である。なぜなら、独自の進化を遂げたとは言え、ポップスにおいても MTRは映画産業からの借り物であり、原点や必然はそこには存在しないからである。 ☆本題である「ポータブルMTRとの連携」について  モデルとしては先に例としてあげた映画製作における「アフレコ」が適切だ。 映画の製作において、撮影現場でいきなりMTRに録音したりはしない。撮影現場で録音さ れたトラックのことを同時録音トラックと呼び、かつてはNAGRA社の同期トラック(音声 を録音するトラックとは別の・・・実質3トラック)を備えたポータブル・レコーダーが 多用されていた。もちろん撮影現場にMTRを持ち出さない理由は、当時MTRが巨大で高価 だったからだ。  普通の映画とミュージカル映画では、この段階からするべき手段が異なる。(トーキ ーになってからいきなりミュージカルへ映画作りが移行したことに注意)ミュージカル 映画では現場の撮影自体、事前に録音された「ガイド」に従って演技を行い、それを撮 影し、撮影したときの同時録音を新たな「ガイド」としてアフレコを行う。 (この様子はいくつかの映画DVDの特典映像として見ることができる:「雨に唄えば」 特典ディスク付きを推奨)  つまり撮影を行うためのガイドに従い演技し、その同時録音をアフレコガイドにする という多重の同期によってミュージカル映画は製作されるのだ。実際の撮影現場では 再生用と録音用の2台のNAGRAが使用されていたのである。  音楽に読み替えると、ガイドは「指揮」に相当するが、音楽において2重の指揮は 意味をなさない。音楽においてはあくまで最初の撮影用のガイドを、最後まで使用する。  翻訳してみよう  何らかの方法でガイドを作成する。これは指揮に相当するため、テンポや楽曲の位置 の情報を含んでいなければならない。場合によってはピッチ(音程)の情報も含める必 要がある。ポップスの場合、MIDIシーケンスはこの目的で作成されることが多かった。 (今やガイドだけでなく、カラオケとしての役割も持つようだ)  まともな音楽制作ではテンポにも抑揚があるため、均等なテンポにはならないが、 そのような要素を含むガイドはMIDIシーケンスでは作りにくく、そのような場合は、 ギター一本やピアノのみのガイド演奏を用いる。実際にミュージカル映画では、撮影時 にはまだアレンジも完了していないことが多く(もちろん演奏も)、アレンジャーや作 曲家が弾いたピアノ一本の生演奏に合わせて撮影することもよくあったようだ。音楽の 場合このガイドは実際のミックスでは外すことが多いが、最終段階直前まで演奏に影響 を与え続けるので、決しておろそかにしてはいけない。テンポ抑揚が多い場合は、楽器 を持ってガイド作成することも、イマジネーションを阻害するという意見もあり、口三 味線やライブの録音物、ガイド用のセッションを用いたりする。  ガイドだからといって編集を加えてはいけないわけはなく、ガイドの段階で徹底的に 編集を行うことも有効である。  作成したガイドトラックをポータブルMTRの1トラックとして、ポータブルMTRで再生で きるフォーマット(H4・H4nでは、¥MTRフォルダ内のプロジェクトフォルダの中に44.1k Hzサンプリング・16bit)にして、指定フォルダに入れておけばガイド(指揮)として 再生することができる。録音現場に持ち込んだら、ガイドトラックを再生、聴きながら 目的のパートを録音する。  H4/H4nの場合、録音は2つのモードがある。「over write」(上書き録音)モードと 「always new」(常に新規録音)モードである。違いはその名が示すように、前者は 指定されたトラックの任意の場所を書き換えていくモードで、曲の中途からの録音に 対応し、別のトラックに切り替えるには切り替え操作が必要である。これに対して 後者では、録音を行うと常に曲の先頭から始まり、録音の度に新たなトラックが作成 される(カードの容量に達するか、そのプロジェクトのソング数が99に達するまで)。  audacityとの連携は、ポータブルMTRが同時再生トラック数が4であるのに対し、 audacityではより多くのトラックを同時再生できることが最大のポイントであるが、 それだけならaudacityである必要はない。  audacityの特徴は、その優れたファイル操作能力にある。  H4/H4nのMTR機能を利用したアフレコ(多重録音とも)の問題点は、上記の「always new」モードに代表される、莫大な数のトラックの管理と、その操作である。つまり 調子に乗って次々にファイルを作成すると、後からどのトラックに何が録音されている のか、調べるだけでうんざりするという事態が訪れる。もちろん個々のテイク(トラッ ク)を録音するときにきちんとメモをとり、管理することは言うまでも無いが、次の ような手法をとると管理だけではなく、ファイルの安全性を高めることができる。  ガイドを作成すると同時に、想定される以上のテイク数のトラックを「製作」コマン ドの「無音」またはガイドそのものなど、録音に都合の良い形態で事前に作成し、SDカ ードに書き込んでおき、そのトラックを「over write」モードで上書きしていくのであ る。  もちろんファイルの名称も目的に応じて事前に決定しておく。安全性が高まる理由は、 事前にダミーのファイルを置くことで、新規録音を避けSDカード内の物理位置を事前に リザーブすることで、ある種の「論理フォーマット」を施すことになるからだ。  万一、SDカードに不良ブロックが存在する場合は、このダミーファイルを書き込むと きに(事前に)発見できる。(ただしPCでSDカードそのものをフォーマットすることは 避け、必ずレコーダーでフォーマットする必要がある・・・厳密にはファイルシステム が異なるため)  また人間の心理の問題で、事前に入れ物や整理の用意をし、事に臨み、後の作業を 楽にするのと、後から自分の尻拭いをするのでは精神的負担の大きさが異なる。人間の 心理とは、あらかじめ「名前」があることで安定するものなのである。  ちなみにこれらのレコーダーでは、内臓バッテリーが使用とともに無くなっていった 場合には、一定残量に達したところでファイルを閉じるようにプログラムされているが、 突然電源が切れた場合には対応できず(管理情報は後書きなので、管理情報無し=ファ イルは無効=録音データ破損)、そのファイルは読み出すことが困難だが、over write では管理情報を更新しなくても良い範囲(録音時間が事前に用意されたファイルの時間 よりも短い場合)では、ファイルの生き残る確立は大幅に増大する。この点からも安全 性が高まったと言える。 ○audacityのアウトボード(リバーブ)として使用する。  audacityは一般的DAWと比較すると、その構造がステレオ2チャンネルバスしかなく、 そのためリバーブなどの並列系エフェクト処理で独特の手順を必要とする。 もちろん、audacityには標準でもリバーブのエフェクトがあり、またサンプリング・リ バーブのプラグインもあるが、それだけで十分とは言い難い。    リバーブ送り用のミックスを作成し、そのファイルをSDカードのプロジェクトフォル ダに書き込む(H4/H4nの場合44.1KHzサンプリング、16ビットで)。  レコーダーとアンプ/スピーカーを用意し、自分の望む響きのあるところへ出向く。  その空間で、その音をスピーカーから放出し、「響き」を録音し持ち帰る。 その「響き」トラックファイルを読み込めば、天然リバーブとして機能する。実際の空 間によるリバーブなので、曲調に合わせてマイクやスピーカーの位置を移動しながら 処理を行うこともできる。何とイマジネーションをくすぐる手法だろう! (従来DATなどでこの手法を用いようとすると、持ち帰り後に元のトラックとの同期が 難しく、そのためにタイムコードやスタートトリガー信号などが必要であったが、ポー タブルMTR上では、それぞれのトラックは同期しており(現場で録音したトラックのみ、 レーテンシー分遅れるが)、単純にaudacityで読み込むだけで同期させることができる のである)     ○超長尺録音の友としてaudacityを用いる  フラッシュメモリーを記録媒体に用いた録音機市場は活況のようだが、比較的新しい モデル(先出のZOOM社ではH2やH4n)では連続録音時に2GB単位でファイルを閉じるよう に設計されている(WaveSpectra.exeなどでも同様)。これらの装置では最初の 2GBファイルを閉じた後に、すぐに次のファイルが自動作成され、しかもシームレスに つながるように設計されている。つまり便宜上2GB単位にファイル分割はされるが、後で それをつなぎあわせれば連続した状態に復元できるようになっている。  実際に超長尺状態で使用するかどうかは別として、一旦連続を回復し、必要な部分を 切り出すという手順が、間違いも生じにくく作業し易い。  audacityはこのような目的に大変使用しやすく設計されているし、10GB程度のファイ ルも難なく取り扱える。 (ver,1.3.11以降を強く推奨)  作業の手順はシンプルで、 1)audacityを起動し、 2)接続すべきファイルをすべてドラッグアンドドロップで読み込ませる。  一つずつ読み込みを待って、次をドロップする必要はなく、順番どおりに次々に  放り込めばよいようだ。  読み込み終わるのを待つ。 3)3っつのステレオトラックがあるとしよう。  「すべてのトラックを選択しない状態(Ctrl+Shift+A)か、または2番目以外のトラッ  クを選択し」(←重要)、タイムシフトツールを選択(F2)し 4)2番目のトラックをつまみ右にドラッグ  1番目のトラックの終了ポイントよりも、2番目のトラックの先頭が右に来るまで  右方向に動かす(表示がはみ出てイヤな場合は「プロジェクトを合わせる」ボタン)。 5)そのままマウスボタンを離さずに、1番目のトラックに(上に)ドラッグ。 6)トラックが合体したら、2番目のトラックを左に動かし、接続点に黄色線が現れる  まで寄せる。黄色線が出たところでマウスボタンを離すと位置調整完了 (この状態では位置が合っただけで、つながってはいない。右にずらせると動く) 7)本当につながっているか、接続ポイントのタイムスケール上(定規のような部分)  をクリックすると即座にその部分を試聴できるので、確認する。 8)問題なければその縦線のところにカーソルを持って行きクリックすると、接続が  完了   (「編集」の項の拡張タイムシフトツールを参照)  別の方法では 1)、2)は上記に同じ 3)2番目のトラックを選択し(トラック左側のサンプリング周波数表示あたりをクリッ  ク)Ctrl+C(コピー)またはCtrl+X(ムーブ)でクリップボードに取り込み、 4)1番目のトラックを選択しEnd(または「録音と再生」→「終わりまで進める」) 5)Ctrl+Vで貼り付け 7)同上 8)同上 どちらも結果は同じなので、好みの操作を行えばよい。 またいきなり2GBのファイル同士の接続ではなく、数分程度(もっと短くても可)の ファイルでこの作業の練習を行うとよいだろう。 しかし、読み込むファイルがどこにあるかによって、作業全体の作業時間が大幅に 影響を受けるので、以下を参照いただきたい。 ************************************** PC:NEC VY10 Pen M 1GHz +1GB mem +320GBHDD(WD) audacity ver,1.3.11 SDカード :class6 dual core 8GB Recorder : ZOOM H4n ファイル=2096161KB+2096161KB+411196KB(2GBfullX2 +411MB)4.38GB(4714MB) 48kHzfs24bit 4時間32分 一旦ハードディスクにデータ転送した場合    SDカードから直接読み込んだ場合   SDカード→HDD内装E:      4分15秒 HDD →audacity        4分17秒      SDカード→audacity 6分52秒 接続して 増幅(+14dB)        16分03秒           18分34秒   表示更新まで      17分18秒               20分15秒                          ファイル書き出し 10分28秒 プロジェクトファイル書き出し14分10秒               15分20秒 ファイル書き出し(24bit)   8分40秒                9分17秒 イコライゼーションfc=100Hz 20分37秒            21分16秒   表示更新まで      21分49秒               22分18秒 ファイル書き出し(24bit)   9分04秒                9分33秒 *数値は8回の平均  増幅までで、一旦コピーした場合は24分35秒、直接読み込みでは25分26秒で、この 時点で「SDカードから直接読み込み」はすでに遅れている。  実はaudacityが作成するテンポラリーファイルは、audacityにとってはプロジェクト ファイルと同じ意味を持ち、上記の「プロジェクトファイル書き出し」を行った時点で テンポラリーファイルは抹消され、かわりにプロジェクトファイルが使用される。 したがって、プロジェクトファイルが遅いドライブにあると、このステップ以降で スピードが落ちてしまうので注意する。  一旦ハードディスクにコピーをとり、audacityに読み込むのは手間が増え、遅くなる のではないかと考えられがちだが、実際にはSDカードから直接読み込んだ方が相当に 遅い。また、誤操作でオリジナルを傷つける可能性もあるので、コピーから読み込 む方が速く安全ということになる。 使用しているSDカードもカードリーダも、平均的なものに比べ相当に速いが、それでも こんなものです。この時間を考慮して作業手順を考えなければならない。 ************************************** <<巻末>>(増幅・正規化の項を参照)  ZOOM社のこれらの製品を例として挙げていることに特別な理由は無いが、あえて 言えば、廉価で、進歩的な機構を備えているため、お得感が高く、またaudacityとの 基本機能との組み合わせで、その潜在能力を引き出すのに好適であることなどが 挙げられる。(これらの製品にはCUBASE LE4がバンドルされてはいるが・・) デモ機をいち早く貸して貰えるので、自動的に検証が早くなるということも・・。  これらの製品を発売しているZOOM社は、もともとポータブル録音機の製造メーカーで はなく(一体型ハードディスクMTRは以前から発売している)、それゆえ会社としての 「伝統」が豊富とは言えない。この伝統は良い面と悪い面の両方を持っており、それは 使用者の立場に限っても次のような影響を及ぼす。 *運用面について*  録音を行うには装置類があるだけでは優秀な録音にはならない。明確に技術的作法が ある。録音という運用技術そのものが、装置に先行して存在するわけではなく、先行し ているのは装置の方で、作法とは、その装置の運転技術にほかならない。 「伝統」が影響を及ぼしすぎると、その装置が持つ潜在能力が損なわれる場合もある。  実際の運転では(仮に誰かの演奏を録音するとしよう)、 1)実際の録音に先立ち、試験的に演奏してもらい、録音レベルやマイク位置などを  決定する。もちろん本番で演奏の音量が大きくなることは普通なので、それを考慮  して決定。  2)準備万端であることを演奏者に告げ、録音を開始した合図を演奏者に伝える。   3)演奏が始まったら、モニターによる試聴で演奏やシステムの異常に気を配りながら  録音レベルメーターを注視し、オーバーレベルしないかひやひやしながら、  「オーバーしない範囲」「できるだけ高いレベル」になるように、ときに録音レベル  を微調整しながら、演奏が終わるのを待つ。(他のスタッフがそこにいれば、自分の  読みが如何に正しかったかを、誇示する・・) 4)演奏が終わったら、適切な時間待って、録音を停止する。 という作法なのだが(演奏者への作法は、この作文では触れない)、筆者の長い録音経 験によれば、現在のデジタル録音において、この作法ではベストな録音はできない、 という結論に至る。  1)は現在のデジタル24bit録音でも、もちろん必要なことだ。しかし、録音レベル の余裕のとり方がまったく違う。24bit録音がそれまでの16bit録音と異なる点は、音色 や滑らかさだとか、S/N比だとか言われるが、確かにそれもある。 16bitでは約96dBだったダイナミックレンジが、24bitでは約144dBにも拡大されている。  この拡大具合が問題なのだ。(運用方法を変えなければならない「問題」という意味)  実際に録音する場合、A/Dコンバーターに直接信号が入力されるわけではなく、マイ クロホン(コンデンサーマイクではマイク内のアンプ)、マイクロホンの微弱な信号を A/Dコンバータの必要なレベルまで増幅するための、マイクアンプ(ヘッドアンプ=HA) の増幅が無ければ、成立しない。  これらの増幅はどれだけ低雑音化をしても(零下80度くらいに冷却すれば話は別だが) 常に入力換算雑音の形で現れ、現実的には平均的マイクレベル(インピーダンスも)を 増幅すると、ダイナミックレンジではせいぜい80dB程度しか得られない(アンプそのも ののみで、入力換算雑音はおよそ-127dB程度になるが)。  この数値は16bitの96dBよりも相当に悪く、実際にフィールドで自然音(往々にして 低い音圧レベル)を録音などしようものなら、実質40〜良くて60dB程度にしかなら ない。  録音したものに「シャー」というノイズが聴こえる場合、通常のオーディオでは、 ダイナミックレンジ40〜50dB程度なので(80dBでは相当にボリュームを上げなければ 聴こえない)、DATやMDの時代にも、実際にマイク録音するとカセットと大差の無い ダイナミックレンジになってしまっていたのだ。その「シャー」はマイクやHAが発し たノイズを「録音」したものだ。  最大のダイナミックレンジを得たいならば、しなければならないことは、 「録音するその音の最大レベル」=「マイク(あるいは内蔵のアンプ)のクリップレベ ル」=「HAのクリップレベル」=「A/Dコンバーターのクリップレベル」にすることだ。 これを実行することを「レベルマッチングをとる」という。単にレベルのマッチングが 取れるだけでなく、歪や音色も最大になる。またそれぞれにレベル調整できる機構が 付いていた場合、「ユニティーにした」という。  実際にこれを実行しようとすると、本当ならマイクの中にレベル調整がなければ ならないことになるが、残念ながらそのようなテクノロジーは今のところ開発できてい ない。せいぜいコンデンサーマイクなどで「PAD」機能があるくらいだ。  旧来の録音機の設計では、このマッチングのほとんどが完全には最適化されず、そ れよりも深刻な問題の解決に注力されていた。旧来のレベル調整は、HAとA/Dコンバー タの間に位置し(わざわざマッチングが崩れる方向で機能)、「録音メディア上のレベ ル」にのみ最適化させていたと言える。 <<なぜそうまでして録音メディア上のレベルが重要だったのか・・・>>  それは、アナログ記録において、メディアは有限のノイズを持っていた、というこ とに尽きる(デジタルにおいても量子化ノイズはあるが、それはメディア上ではない)。  一定の(正確には一定ではない:変調ノイズという、デジタルで言えば量子化ノイズ のようなふうまいのノイズがアナログにもある;バイアスが浅めのときに出やすい) ノイズを持ったところに記録するのだから、オーバーしないように、できるだけ高い レベルで記録しなければならなかったのである。 <<時代は変り>>  デジタル記録になって事情は一変したはずだったが、現実の録音機では相変わらず、 HAとA/Dコンバータの間に録音レベル調整がある設計が続いていた。この理由は、使用 者がそのことに慣れているためと、当時の16bitコンバータは量子化ノイズが多く(現 在多用されているコンバーターは、そのほとんどがデルタシグマ型で量子自体が曖昧 化されている)、そのためにはA/Dコンバータとそれ以前の回路のレベルマッチングを 調整する方が効果的であったからだ。  変ったことは@メディアそのものにノイズは存在しないので、情報理論的にはA/D コンバータからの出力が高くても低くても、そのまま記録することが最も低損失である こととAA/Dコンバータそのものの高ビット化により、十分なダイナミックレンジが 確保(といっても110dB程度だが)されたことにより、 <<問題の本質が、メディア上の記録レベルでは無くなった事だ。>> 記録メディア上の24bit144dBのダイナミックレンジのどこに80dBの幅をとろうと、そ のこと自体は何の影響も与えない。(オリジナル記録物に関して=後で製音するなら)  現在の技術でできることは、HAの増幅率を「入力音圧レベル+マイク感度」に最適化 することしかないと断言できる。もちろんHA(それに付随するラインアンプを含め)と A/Dコンバータはレベルマッチするように設計しなければならない。 実際にこの論理に従って設計された(と思われる)ものの例としてM-Audio社MT-2496や ZOOM社のH4やH2がある。しかし、これらの機種に共通することはHAの増幅率を変える スイッチ以外にレベル調整が付いているのだが、これらはA/Dコンバータの後でデジタ ル的にレベル調整・・・・@の理論で言えばこれは損失にほかならない。  この損失を冒してまで記録レベルを調整することなど、音品質を優先する上では何の 意味も持たない。(注:ただし録音後に何の処理もせず、その録音機で再生するには 意味があるかもしれないが)(注:持ち帰り後正規化することは、同様に損失といえ るが、24bit固定小数点演算で現場で行うのと、持ち帰り後に32bit浮動小数点演算で 処理することでは、損失の度合いが異なる) <<これらの録音機で損失を最小化するには、レベルマッチした状態=ユニティー にセットし、絶対に触らないことだ>> M-AUDIO MT-2496のマニュアルにはその記載が無いが、録音レベルを最小に絞ったとこ ろがユニティーになり、ZOOM社H4、H2では「100」がユニティーになることが明記されて いる。(H4nでは事情が多少変り「100」はユニティーではない)(R-09では1がユニテ ィー:それ以上ではデジタル的に増幅・・でS/Nが・・・) <<録音レベルはL、M、Hのスイッチのみで行うこと>>が最も損失を抑え、かつダイ ナミックレンジを最大にとったベストな運用になる。増幅・正規化の項と次を参照の上 で、試してみて欲しい。その運用で録音レベルオーバーになるようなら容赦なくスイ ッチ切り替えし、レベル最適化し、後から修正。(従来では考えられなかった・・・・。)  さらにZOOMの設計者はこれだけでは不十分と考え(たのではないかと思う)、さらに S/N比を向上させるために、独自の「プリ・エンファシス」を組み込んでいる。プリ・エン ファシスとは聴覚上のS/N比を向上させるために古くから用いられている方法で、S/N比 が悪化する伝送路の手前であらかじめ耳に付くノイズの帯域(数KHz以上の帯域)を 持ち上げ、その問題の伝送路の後で、先に持ち上げた分、下げることで、ノイズ分布を 変化させる技術だ。一般的にその伝送路は伝送媒体(FMラジオ放送では送信機の手前で 持ち上げ、受信後に下げるなど)であることが一般的だが、HシリーズではHAの一部で 持ち上げ、A/D変換後に下げる(筆者の推論だが)という手法をとっており、この手法は 量子化ノイズの低減とトータルでの録音S/N比の向上に相当貢献しているようだ。(ダ イナミックレンジそのものは変化しない)  しかしこのアイディアは、逆に新たな問題も生み出したようだ。つまりエンファシス の効いていない低域と、エンファシスの効いている高域でクリップレベルが一致しない のである。その差はおよそ12dBで、安全をとるなら最大録音レベルをピークで-12dBに 設定し、そうしなければ、歪んでしまう可能性があるのだ。  筆者の策定した(ZOOM社とは無関係に)指針は、ピークで-12dB以下になるように、 L、M、Hのスイッチのみで録音レベル調整を行うというものなのだが、そうするとほと んどの場合平均-24dB以下の「相当に低いレベル」になるはずだ。  しかし心配には及ばない。持ち帰り後にaudacityで「正規化・あるいは、増幅」を行え ば最高の品位の録音を取り出すことができる。(これ以外の方法は推奨しない) (スイッチで切り替えた場合、audacityで容易に切り替え部分の補正ができる。さすが に演奏中の無神経な切り替えは避けた方が良いだろうが、仮に切り替えたとしてもあま り問題は生じない。ジワリと滑らかに、何dB変えたのかわからない方が深刻・・・・従来 作法では有り得ないことだ) (注、audacityの正規化や増幅以外の方法でレベルを持ち上げた場合、例えばミキサー のゲインやフェーダーで持ち上げた場合、あるべき品質で信号を取り出すことは出来な いので注意すること!!!!!!!)  次に2)の問題だが、これもやはり旧世代の運用方法と言える。なぜなら、操作上の ミスはスタートと停止で起こる。十分に早く(リハーサルから全て、でも問題ない)から 録音を開始し、止めなければ事故は起きようが無い。「ハイ、CUE!!」という掛け声が なければ気合が入らないという人もあるかも知れないが、気合は別のことで入れればよ い。またベストテイクは「ちょっと試しでネ」などのときに出ることも珍しくは無い。 録音機が回ってませんでした、では話にならない。  このような「回しっ放し録音」では次のような問題が起きる。  @往々にして超長尺録音になるので、後からどれがベストなのか、どこにあるのかが   わからなくなりやすい。  A一般的にフラッシュメモリーを記録媒体とした録音機には、2GBのファイルサイズの   上限があり、そこで録音が途切れるのではないか。  B電源が持たない、あるいは電源の持続に不安がある。  C大容量のメディアが必要。  などだが、@は紙と鉛筆あるいはPCで、時間と出来事のメモを作成することで、完全  に解決できる。録音機そのものの操作は不要なのだ。(正常に動作しているか、くらい  は確認した方が良いが)<その目的に適したストップウォッチで支援する、後述)  AH2、H4nでは確かに2GBの制限があるが、ファイルサイズが2GBに達すると、すぐに  次のファイルが自動作成され、録音は継続される。またaudacity上で連結すると、1  サンプルの欠落も無く復元できる。(旧H4では、空白ができる)  Bこれらは電池あるいはバッテリー、と外部電源で動作するが、マニュアルには記  載が無いものの、電池あるいはバッテリーをセットし、なおかつ外部から電源供給す  ると、完全にUPS(無停電電源)状態で動作するように設計されている。従って、電池  またはバッテリーをセットし、外部から別のバッテリーなどで運用すると、リレー運  用でき(つまり外部バッテリーを外しても自動的に内部電源に切り替わるので)、  適切に外部バッテリーを交換していけば商用電源の取れない環境でも、長時間運用が  可能だ。  C記録メディアの値下がりは目を見張るものがあり、現在の旬は8GB〜16GBで、十分  に要求される時間をカバーできるだろう。  3)運用中は1)で記述したように、操作する必要は無いと言える。旧来そのことに 割り当てられていた労力は、演奏者とのコミュニケーションにでもあてるべきだろう! 4)止めるのは片付けの直前で良いのでは・・。  (必ず電池・バッテリーを内装しておくこと・・) 注記)これらの録音機では、マイクロホンへ入力される音圧の設計上の想定が比較的 に低く(他社製品に比べ)、大音量に弱い傾向がある。内蔵されたマイクに対しては 有効な手立てが無いが、外付けマイクの場合は-20dB程度のPAD(減衰機)は用意したい ものだ。また内蔵されたマイクが指向性マイクであるため、屋外では風対策も必要だ が、正しく使用することで無指向性では実現が困難な収録も可能だ。  風雑音に対しての基本はウィンドスクリーンだが、audacity上での対応作業はイコ ライゼーションが中心となる。(Hシリーズにもローカット(HPF)が装備されているが、 デジタル領域で行っているため、持ち帰り後の処理の方が得策と思われる:HPFの設定 に関しては専用の項目を参照) このように、運用方法は変革されるべきときに来ていると筆者は考えているし、自分の 仕事ではこの手法を実行することで品質の向上を図っている。目を見張るほどの成果が 出ている。 <<超長尺録音への高機能ストップウォッチの支援>>  紙と鉛筆によるメモは大変有力な技術で、慣れるとさらにもう少し自動化、あるいは 高機能化したくなるが、それには「そのほかの有用なソフト」で触れた「SGWatch.exe」 の使用が好適だ。  紹介で触れているように、独自のアルゴリズムにより、PCがスタンバイになろうと 休止モードに入ろうと、極めて安定な動作で必要なログを残すことができる。 使用方法は イ)録音開始と同時にSGWatchをスタートする。 ロ)事細かにイベントを「ラップ計測」で記録していく。  (イベントには番号が振り付けられるので、その番号の説明をメモ帳やメモ書きで  記録する:実体のあるクリップボードが便利) ハ)録音を停止したら、ラップを打ち、ストップウォッチも止める。 ニ)ログをsaveする。save方法は、クリップボード出力・・・メモ帳に貼り付け、または  csvファイルで出力だが、どちらでも良い。csvの場合は、拡張子を.txtに変更すると  メモ帳で開くことが出来る。(あるいはドロップで開く) ホ)テキストエディタまたはメモ帳で、audacityのラベル書式に従い、ログを整理、  メモを合体し、save ヘ)audacityで録音ファイルを読み込み、次いでホ)のファイルを読み込むと、  ラベルの形でマークが配列される。 *SGWatch.exeの動作条件は、相当にローパワーなPCでも問題なく動作できるほど寛容 で、クロック400MHz程度あれば十分快適に(1/10秒解像度で)動作できるだろう。 またメモ帳と併用しても精度には影響をおよぼさない。また工作できるユーザーなら マウスを一つ分解するだけで、リモート動作させることも容易だ。 *H2やH4nの非圧縮ファイルフォーマットは、BWFと呼ばれる拡張された.wavファイルで 本来の.wavと比較して長大なヘッダを持っている。このヘッダには録音中に手動操作で 打たれたマーク(ロケートマークとして使用できる)とサンプル落ちなどの障害が発生 した場合、そのログが残されるように設計されている。  これらのログを見るには、ヘッダが残っているファイル(一度audacityで読み込み、 書き出しすると、ヘッダは普通の.wavに書き換えられ、情報は失われてしまう)を 録音したH2やH4nに戻し、閲覧コマンドで見ることができる。しかしこれらの情報を 直接読み込み閲覧したり利用したりできるソフトは現状では見当たらず、閲覧するには バイナリエディタで読み込み換算するしかないようだ。 どなたかBWFヘッダ解析表示ソフトの作成をお願いします・・・。 *改訂2011_11_23 WaveSpectra(その他の有用なソフトの項を参照)がver,1.50とな  り、上記の問題はほぼ完全に取り除かれた。このバージョンからBWFヘッダを直接  閲覧したり、一部情報を編集書き換え、コピーペーストできるようになった。   また、H2、H4nで作成されたディスクリート4チャンネルソースを素早く再生した  り、PCのUSBに接続された簡易なオーディオI/FとオンボードオーディオI/Fの両方を  使用し(それぞれにチャンネルを割り付けて)マルチ出力デバイス再生する機能も  併せ持っている。これらのポータブル機器とaudacityを連携させるために、  WaveSpectraは非常に有用といえる。併用を強く推奨します。 *ZOOM社はすっかりレコーダー製造会社として、その名が知られるようになったなあ、 などと思っていたら、昨年の夏(2009年9月)またしてもR16という、まさにポータブル MTRの名にふさわしい製品が出現した。詳しい検査結果は「HDR考」の増補に譲るが、 この製品も概観や価格に似合わず、質実剛健な基本性能を持っていることが判明。 Hシリーズと設計グループは異なるようだが、割り切りの良い、Hシリーズに共通する 利点とポリシーがあるようだ。この製品の特徴は ○デフラグメンテーションではないが、限りなくそれに近い ○バランス8入力同時録音、16トラック同時再生 ○トラック間の時間位置精度が完全(HDR考参照・・・普通は問題が多い) ○内部構造や設計が丁寧(基本に忠実)で、改造にも耐える(個人の責任で) ○内部構成は完全にインラインミキサー+MTR+エフェクトで操作しやすい ○極めて軽量で高い安定性を持つ ○必要なら複数台の同期運転が可能 ○起動が極めて速い ○記録メディアのホットスワップが可能 ○部品代のみと言ってよいほどの廉価 ○電源環境が驚異的(単3X6本あるいは外部5V0.3Aで、両者は相互にUPS構成(無保証)) ☆すべての編集機能が無い(筆者はこのことが高い基本性能の原因と考えている) ☆現時点では44.1kHzfs/24bit/16bitのみだが、48KHzには対応できるのだそうだ ☆4チャンネル分のDACを搭載しながら、実質2チャンネルステレオ出力のみ ☆2GB上限があり、上限に達すると録音は停止 などだが、筆者としては高い基本性能と、改造に耐えられるだけで十分満足。 しかし、編集機能が全く搭載されていないことからも、PCベースで加工や操作を行う ことを前提にしているようで、CUBASE LE4がバンドルされている。 このバンドルソフトとの組み合わせでは、オーディオデバイスとしての機能や、フィジ カルコントローラとしての機能が盛り込まれている。audacityとの組み合わせでは、 これらの機能は使用できない(オーディオ出力デバイスのみ使用可能)が、単体レコー ダーとして使用している場合でも、PCとの接続は可能で、すみやかなデータ転送が 可能。(もちろんレコーダーとして動作中は通信できないが)  一見ただのミキサー一体型のMTRに思えるが、中身はものすごい性能である。 ただ価格が価格なので、使用部品が最高のグレードとは言いがたく、どうしてもそれが 気になる場合は自力で交換すれば良いだろう(自己責任で)。 このような優れたベースをカスタマイズするガレージメーカーが、暗躍するようになれ ば、日本のシーンも活性化するのだろうが・・。A/D直後の録音前の8トラック分と、ステ レオ2チャンネ分のデジタル出力くらいは容易にマウントできるはずだ。筆者はその性 能と中身を見ているだけでワクワクが止まらない。  もちろん普通にマルチ録音したり、現場録音したりすることに機動性や安定性をもた らせることは当然として、インパルスレスポンス収集や上項で触れた出張リバーブへの 応用では、無尽蔵の可能性が期待できる。    マニュアルには記載が無いが、いくつかポイントがあるようなので、列記する。  デフラグメンテーションでは無いが、空白部分にも全て無音が詰め込まれている必要 がある。デフラグメンテーションでは無いので、最初に使用したトラック数に後から トラックを追加することができるのだが、長尺の場合、後から長尺の後部に録音すると その前の空白部分の無音詰め込みのために、しばらく操作ができなくなる。  システムから考えると当然で、これが無い方が具合が悪いのだが、このような操作の 可能性がある場合は、最初から使用する分のトラックを空録音しておくことを推奨する。 (待ち時間が無くなるのと、ファイルアロケーションが市松模様になるため、安定性が 向上する・・・といっても市松模様になっていなくても実質的な障害は無いようだが) また、使い方によってはメディア上に無駄が生じるため、十分に容量の大きなメディア を使用し、長尺を使用する場合は使用前にR16でファーマットした方が良い。例えば 上記のように無音詰め込み中にFULLになってしまった場合、ファイル破損などの事故の 原因になる。また、作業中の多くのプロジェクトを1枚のカードの中に混在放置しない ことも作法として重要。  レーテンシーはトラック間でのアナログコピー時で(あるトラックを再生し、その信 号を別のトラックに録音したとして)58サンプルの遅れ。モニター時の遅れは64サン プル(=1.45ms)で、十分に低いと言える。  録音ファイル形式は、ステレオファイルとモノファイルのどちらでも指定できるが、 どちらの場合も2GBの上限があり、そのプロジェクトにステレオファイルが含まれてい ると、最大録音時間が半減する。全てモノファイルとすると、16bitモードで6時間、 24bitモードで4時間が上限となる。(メーカー発表と異なるが、検証済み) 16bitモードと24bitモードは、ファイル単位では混在が可能。  録音レベルそのものはHAゲイントリムのみで決定される(フェーダーは完全にモニ ター側に所属のインライン構成)。諸元によると可変レンジは54dBだが、実測では 48dB。  本機の特徴の一つ(敬遠の原因か?)がレベルメータなのだが、4点LEDディスプレイ が採用されている。筆者の評価は高く、高い視認性と低電力動作、点灯の仕方の的確さ は知る限りの中で最高の出来と言える。ただ、表示値と実測値は多少異なり、表示値 が0dB、-6dB、-12dB、-40dBになっているが、実測では-0.4dB、-11.3dB、-17.1dB、 -60dBで非常に広範囲をカバーしていることがわかる。低い表示から、「信号あり」「 良好」「要注意」「クリップ」に読み替えることができる。表示値通りではこの読み 替えはできない。この表示を行うのに入力信号の消費ビット深度から計算し表示を 行っているようで、実質的な表示のためにトランジェント処理も含まれているようだ。 これは、実質的に録音品質に影響を与えない、極短時間のパルス(ピーク成分の一種、 筆者のテストには1サンプルのパルスを使用)は読み飛ばすように設計されているよう だ。  逆にこの部分に12ポイントのLEDを採用すると、消費電力やノイズの抑制で問題が出 やすくなるし、大型のLCDにすると視認性が現場向きではなくなる。4点表示が使える かどうかはある程度の慣れの問題もあるが、上記したように現在の録音機では、ぎり ぎりの高レベル録音はリスクの方が高く、あまり意味があるともいえない。だまされ たと思って使用してみよう。  どうしても我慢できない場合は、デジタル出力を装備(自己責任で)し、正確なメー ターブリッジを外付けすることも不可能ではないが、実際にそうした装備をしても大し た利点は無かった。  本機のコマンド体系は機能が限られているため(エフェクトは豪華搭載だが)、主 要な操作は十分に記憶できるはずで、熟練しやすいとは言えるだろう。 **R16とaudacityの有機的連携は、「MTR的録音」の項で解説。