編集 その2                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010  その1で指定した場所、マーク(ラベル)を元に、編集は実行される。 もちろん、いちいちラベルを作成しなくても、範囲を選択し気ままに編集や効果を実施 することは全く問題ないが、使用者の性格にもよるが、慣れれば位置の特定という作業 は位置の特定として集中して、効果は効果で専念して行った方が能率的と思う。この二 つの作業は、ある意味、全く異なる集中が要求され、それぞれある程度まとめて作業し たほうが、私の場合は楽である。   注意)ラベルが既にある場合、そのまま編集作業を行うと、削除などのコマンドでトラ  ック編集すると、ラベルが取り残され意味をなさなくなってしまう。このような場合  はその編集にあわせ、削除する部分を指定した後・削除実行する前に、Ctrl+Bで一時  的にラベルを付け、ラベルとトラックの削除箇所の両方の色が濃くなった状態で、削  除実行するとその他のラベルも連動して動く。 ○ コピー、切り貼りなど   正しくは編集メニューからコマンド選択するかもしれないが、Windows標準の操作が  そのまま適用できる。つまり選択部分を指定(ラベルがある場合は、ラベルのタイト  ルを左シングルクリック)し、 ☆ Ctrl+Cでコピー、貼り付けたい場所にカーソルを合わせて右クリック(新位置指定)、  Ctrl+Vで貼り付け。  すでにデータのあるトラックのどこかで選択ツールにてポイントを打ち、ペーストを  行うと、「挿入モード」で元あるトラックのポイント以降が右にずれ、貼り付けが行わ  れる。 ☆ 同様にCtrl+Xでカット・・カットは選択部分を切り出し、元の音の切り出し部分の               空白を頭詰めされる。 注意)カットコマンドでは対応するラベルごとカットされる。どこかに貼り付けてもラ  ベルは戻ってこないので注意。 ☆ 同様にCtrl+Alt+Xで分割・・カットと同じように選択部分を切り出すが、元の音の               切り出し部分は空白になる。間に空白が入るとタイムシ               フトツールはトラック全体ではなく、「島」データを他               の島と独立して動かすことができるようになる。               (島と島の間は、1サンプルの空隙がある)  ☆ Ctrl+Tで選択部分のトリム(切り出し)・・選択部分以外を空白に。Ctrl+Vで貼り               付けられる部分は、トリムされた選択部分。 ☆ 削除 Ctrl+K  ・・カットと同様に、削除部分の空白は、空白部分以降のデータ               を頭詰めされる。 ☆ 分割と削除 Ctrl+Alt+K・・削除部分は頭詰めされず、空白として残る。 ☆ 無音 Ctrl+L・・削除部分は空白ではなく無音データで埋められる。 ☆ 分割 Ctrl+I・・選択ツールで分割ポイントを指定し、分割を実行するとその部分          にデータの「不連続」が作られる。分離することで、タイムシフト          ツールで隙間を作ることができるのであるが、隙間を拡大はできる          がオーバーラップ(負の隙間は作ることはできない。この状態で隙間          は空白扱いになる。           隙間を作りファイルを書き出すと、隙間部分は空白から「デジタル          ゼロ(無音)」に置き換えられる。        注意しなければならないことは、トラック冒頭が空白だった場合ファイ          ルを書き出すと、その冒頭空白部分は頭詰めされ無くなってしまう。          この「勝手に頭詰め」をしない場合は、トラック冒頭に「製作」で無          音を1サンプル以上書き込めば、冒頭に「無音という音」が有ること          になり、頭詰めされない。           分割コマンドで分割線が表示されていても、その表示線上にカー          ソルを持って行き左クリックすると、連結コマンドと同様に連続デ          ータに戻る。          連結が大量にある場合は、そのトラックや範囲を指定し「ミックス          して作成」コマンドで、そのトラックあるいは範囲内を全結合でき          る。 ☆ 新規分離 Ctrl+Alt+I・・選択ツールでドラッグし範囲を指定する。          この編集コマンドを適用すると、新たなトラックが定義され、選択          範囲が元のトラックから切り出され、新たなトラックの同じ時間部          分に移動する。          元のトラックの切り出し後は詰められず、空白となる。 ☆ 連結 Ctrl+J 空白部分がある場合、選択ツールでその空白部分を覆うように範囲          指定し、連結を実行すると、空白部分は「デジタルゼロ(無音)」に          置き換えられる。 ☆ 複製 Ctrl+D  選択ツールで範囲を指定し複製を実行すると、新たなトラックが          定義され、その選択範囲が、新たなトラックの同じ時間位置に複製          される。  ***接続***(上記「連結」以外の方法)  音データの接続は大別すると、 1)波形レベルの単純接続と 2)フェードイン/アウトの組み合わせによる接続がある。  操作上の手順も、 3)同一のトラック上に、素材断片を接続しながらペーストし、並べていく方法と、 4)異なるトラックの一つ一つに素材断片を置いていき、最終的に「ミックスして作成」  または書き出しで複数トラックをまとめ(これもトラックダウン)出力する方法があ  る。  どの方法を用いても作業は可能であるが、1)でのメリットは、大きな画面を使わな くても(最低4トラック表示できればよい)作業ができる点であるが、素材断片の個別の レベル調整がしにくい、クロスフェードができないといった問題があり、1)は3)の 方法で作業する。  2)の方法を実行しようとすると、必然的に4)の手順で行うことになる。丁寧で、 細かな配慮ができ、audacityが推奨しているのは4)の方法のようだ。素材断片をそれ ぞれ異なるトラックに置くので、それぞれのレベル(増幅やエンベロープツール)や時 間位置(タイムシフトツール)、さらには個別にイコライゼーションなどの効果実施が 可能。 * これら接続を支援するコマンドには イ)正確な編集位置を自動確定するために「ジャスト・ツール」とでも呼ぶべき仕組み  がある。  ある音の選択終了ポイントに近いところにマウスカーソル(選択ツール)を持ってい  き、左クリックをすると、あるところよりその選択終了ポイントに近いところでは、  「カーソルの引き込みが起こり(まるで磁石のように)、ジャストの時には縦方向に  黄色い線が出現する。   黄色い線が表示されたときには、「サンプル単位での位置調整が自動」で行われた  ことを示す。   この自動調整機能は、4)のようにトラックが違う場合にでも、タイムシフトツー  ルを用いて位置あわせ(スプライシング/直列に接続)すると、他のトラックの開始点  や終了点に近づくと同様に引き込みが起こり、容易に位置調整ができる。もしこの機  構がなければ、目的のポイントに近づくにつれ、時間軸ズームインをしていかなけれ  ば、ジャストに位置を見つけられない。 注)この機構で「黄色線」が現われていても、厳密にはその仕様は「ジャスト±1サン  プル」のようで、1サンプル重なっていることや、1サンプル隙間が開いていることが  ある。黄色線が現われ、位置が確定できても拡大表示し、確認を行い必要なら微調整  するべきである。(おおむねジャストのようではある) ロ)連続した「製作」   audacity起動直後でトラックがまだ無い状態では、製作で何らかの信号を製作する  と、自動的に最初の1トラック(モノの)が作られ、そこに指定した信号が書き込まれ  る。   この状態でさらに「製作」すると、最初のトラックに上書きされ、最初の信号は失  われる。(UNDO可能)しかし、そのトラックのどこか(あるいは終了点)にカーソル  を置いておくと、上書きではなくそのカーソルから指定時間分の「製作」が行われる。  電子音楽的には、このように次々と正弦波をはじめとする信号が並べられることがよ  くあるが、audacity の「製作」はこのようなスタイルに適応する。周波数、レベル、  時間、波形ともにビット深度に見合った、実に高精度な結果が得られる。 注意)製作コマンドで正弦波や各種関数波形は、必ず位相0度から始まるが、長さの時間   指定だけでは終了点が位相何度かまではわからない。次の周波数や波形と同期した   (部分的に)状態か、「0」との交差部分で接続しない場合、接続点ごとに「ぷち   ぷち」とノイズのある製作になってしまうだろう。(もちろん関数1周期から、そ   の整数倍を計算で求めている場合は、その時間を指定すればよいのだが)終了部分   を拡大し「0」交差部分以降を切り捨てる、などの処理を行わねばならない。 注意)audacityの内部「製作」だけでは関数や精度に限度があり、それ以上を求める場   合は、外部プログラムで.wavファイルを作成、またはテキストファイルからの読み   込みをすることになるが、その場合は、4)の手順に従い、個別のトラックに読み   込んでいくことになる。 ***フェード・イン/フェード・アウト   フェードイン/アウトは接続技術の一つで、これに対して前節の接続はカット・イン、   カット・アウト、またはそれらを同時に行うクロス・カットと呼ぶ。順番が逆にな   ったが、異なるトラックをフェードアウトとフェードインを同時に行い接続するこ   とを、クロス・フェードと呼ぶ。 いきなり注意)映画や、音楽では平然とフェードイン/アウトを当たり前のように行うが、   録音技術以前の音楽や自然現象には存在しない、きわめて不自然な表現技術である   ことに注意。クレッシェンドやデクレッシェンドがフェードイン/アウトに近そうに   も見えるが、これらは音量よりも音色の変化の方が大きく、音量だけが変化し中身   が入れ替わるあるいは去っていく、または近づくということは、非現実的な表現で   あることを認識した上で使用する。    実際にこの技法は60年代後半まではどの分野でもそれなりに注意深く使用されて   いたが、70年代初頭ころから何の意味も無く乱用されるようになった。これにはこ   の技術を多用する電子音楽などの影響も大きいのではないか、と筆者は推論してい   る。筆者の師匠は電子音楽制作に深く関わった人物であるが、筆者が学生だったこ   ろ、ろくに考えもせず、お約束なフェード・イン/アウトを使用していると、まず意   味や機能を問われ、あげく「技巧が未熟」だの「汚い」だのと批判されたあげく、   無意味だから排除するようにと「指導」されたこともしばしばあった。実際、使用   する以上は一考するべきだと思う。    実務的な注意としては、カットによる接続と異なり、どのようなタイミングでフ   ェードアウトし始め、同様にインするかは相当な熟練を要し、フェーダーという物   理インターフェースを楽器的に操作するところに原点がある。物理インターフェー   スを楽器的に扱うのであれば、楽器の習得と同様の「体で覚える」訓練が有効だが、   マウスによる書込み操作で同様の訓練が可能なのかはいささか疑問はある。しかし   聴いて滑らかな状態になれば最低限の役にはたつので、「書いては聴く」を繰り返   せばそのうち何とかなるのではないかとも思う。筆者は重要な作業ではいまだに物   理フェーダーを使用しているし、マウス書き込みする際もその感覚を翻訳しながら   行っている。  **フェード・イン/アウトのコマンド   audacityはフェードに関して様々な選択肢を用意している。  一般的なフェードを行うのに、最も使用しやすいコマンドは、「効果」に標準搭載さ  れているフェードイン/フェードアウトを使用することである。使用方法は簡単で、  まず選択ツールでフェードしたい範囲をドラッグで指定し、「効果」→「フェードx  x」を指定する。   フェードインかフェードアウトかはコマンドの指定により決まるので、そのパート  の頭部分にフェードアウトを付けることもできる。動作は指定範囲の全時間を使用し  たリニア動作(デシリニアではない)で、変化幅は1倍から−無限大(絞りきり)であ  る。   2番目の選択肢はエンベロープツールを使用した方法で、単純2点指定でデシリニア  のフェードが可能。また折れ線近似すればあらゆる傾斜が設定できる。 注意)エンベロープツールを用いる場合、絞りきり限界は「編集」→「設定」→「波形  (dB)表示における表示範囲の最小」の設定で変化幅の最小が決まるため、この設定を  必要な絞りきりに設定する必要がある。例えばこの設定を-36dBにすると、画面上で見  える最小絞りは設定値どおり-36dBであり、十分聴こえるレベルまでしか下げることが  できない。(不便なのではなく減衰最小値を正確に設定できることは有用な機能と言  える。   このことを意識してか、それぞれの設定数値の右側には-96dB(PCM 16bitサンプリン  グの範囲)とか、-120dB(可聴範囲の限界付近)などの注釈が添えられている。実際に、  -96dBの指定では、CDの場合完全な絞りきりになる。(CDフォーマットが16bitである  ため)電子音楽分野においてCDが16bitであることは作品とは直接関係がないため、場  合によっては-120dBの設定は使用するかもしれない。-145dBの設定は、おそらくは  24bit A/D、D/Aコンバータの品質評価や、ディザの最適化などで使用するものと思わ  れるが、音楽製作で使用することは滅多にない。(故意にクリップを使用したり、  32bit浮動小数点演算をフルに使用するような特殊な使い方では、大いに活用できる。) 注意)エンベロープツールが実際に作業を行うのは(書き出しまでに)、一連の書き出  しあるいは「ミックスして作成」の直前であり、先にエンベロープツールを書き込ん  でいても、必ず先にプラグインなどの処理が行われるので、順番が重要な処理の場合  は、エンベロープ入力ができた時点で、一旦ファイルを書き出し、再度読み込みを行  う。例えば、エンベロープツールで−96dB下げておいて、後から+96dB増幅するよう  な場合、この順番で処理が行われれば、元通りの音になるはずだが、一度にこの処理  を行うと、激しくクリップしてしまう。  またこのような処理は、ビット深度を端折って処理しているソフトでは、指定どおり  に処理を行っても解像度を大幅に損失するが、audacityではビット深度をデフォルト  の32bit浮動小数点で処理する限り、実用的な解像度を保ったまま処理することがで  きる(元データが24bit深度の場合)。   3番目の選択肢は、効果に標準装備「オートドック」コマンドで、使い方がやや変  わってはいるが、一種の自動のフェード効果である。この効果を動作させるには、フ  ェードを施したいトラックと、その下に「島データ」(島と島の間は「無音」ではな  く「空白」でなければならない)のトラックが必要である。動作は島データトラック  に音があるとき、上のトラックに自動でフェードを施し、レベルを調整する機能であ  る。筆者はあまり使用したことがないが、映画やドラマで、BGMやSEとセリフがあると  き、セリフがあるときには自動的にBGMやSEを設定値まで下げ、セリフを聴こえやすく  するための機構である。もちろんBGMやSEを上のトラックに置き、「島」状のセリフを  下トラックに置き、上トラックを選択して「オートドッグ」を実行する。もちろん  BGM,SEとセリフでなく、それぞれノイズと正弦波の組み合わせでも使用できる。頻繁  にフェードを行う場合、制御トラックを正弦波などでつくり、フェードの「テンプレ  ート」として使用できる。   4番目の選択肢はLADSPAと呼ばれる「効果」の拡張プラグインに含まれるプログラム  で、フェード関係の効果がいくつか見られる。いずれもそのプラグインの作者が望む、  標準搭載のフェードやエンベロープツールで得られるものとは一味違うもののようだ。  (このマニュアルではプラグイン個々については、代表的なものを除き解説しない)   +*拡張操作  このフェードの作業は、一般的には最初の方法である、標準装備の「効果」にあるフ  ェードイン/アウトの使用だが、2トラックを超える複数トラックに同時に行う場合が  ある。もし2つのトラックにこの処理を同時(トラッキングした処理として)に行う  場合は、その2つのトラックがステレオトラックでなかったとしても、一時的に「ステ  レオトラックの作成」でステレオ化し、処理を実行する。(ただしモノに戻すときに、  それぞれのトラックをモノに戻すことを忘れぬように)   複数のトラックに同時にフェードを施す場合、複数トラックにまたがるドラッグに  より同時に複数トラック選択指定が可能。   しかし正しくは、ラベルトラックを作成し、ドラッグか、画面下のカウンタに数値  入力し選択範囲をどこか一つのトラックに指定。その後「トラック」→「選択範囲に  ラベルを付ける」でラベルを作成。いわば選択範囲のプリセットを作成することで、  それを複数トラックに適用することで「トラッキング」した処理を行う。 **リニアとデシリニア   物理フェーダーによるフェードイン/アウトにおいて、その操作は、目的により動か  し方が異なる。例えば、短い時間で切り替えに用いる場合のフェードアウトでは、動  かし始めは慎重に、ゆっくり動かし、一定レベルまで下がったところから比較的早く  絞りきる。   一般的な物理フェーダーは対数スケール(デシリニア)か、対数スケールの一部を  拡大したスケールのことが多いが、上記の場合の操作は、リニア動作に近づける動き  と言える。   そもそも人の感覚とは対数的スケールを持ち、多くの操作系ではdB的に配置された  スケールを採用している。オーディオのボリュームコントロールなどはその例で、回  転式の場合、一定角度で一定dBの減衰が得られる(とはいえ、使いかっての上から、  回しはじめと回しきりである程度補正されている。例えば絞りきりでは-60から-80dB  くらい以下では急速に−無限大に絞りきるなどの工夫がある)   ところが、短い(数秒以下の)フェードイン/アウトでは、この限りではなく、し  ばしばリニアなカーブ(一定角度、あるいはフェーダーでは一定ストロークで、それ  に比率するレベル、つまり50%のストロークでは50%のレベルになるようなカーブ・  ・・50%のストロークは普通のデシリニアのフェーダーやボリュームでは、およそ  -30dB≒1/31=3.2%なので相当な違いがある。DJ用のミキサーの一部の機種では、  このカーブそのものを変更できる機種もある)の方が、表現として好まれる場合が  多い。audacityの効果に標準装備されたフェードイン/アウトはリニアスケールであ  る。従って、エンベロープツールで描くフェードとフェードコマンドで得られる効果  は異なるため、吟味の上使用する必要がある。      筆者はマスタリングもしばしば手がけるが、このフェーダーの動かせ方は表現とし  て極めて重要で(マスタリングの工程でリミッターやコンプレッサーより重要な操作  として用いている)、その動かし方一つで、スピード感、聴こえる成分、トーンまで  も変化(コントロール)できる。本来はイコライゼーションで行うことや、トラック  ダウンで行う調整が、2ミックスされたステレオのソースであっても、ある程度は可能  なのである。物理的には単なるレベルの変化であり、上記のような変質は起こらない  はずなのだが、聴覚における心理量は極めて謎が多い。例えば自動でレベル分布を平  坦化するリミッターやコンプレッサでは、その周波数−レベル特性をはじめとする、  各種の特性が平坦であっても、それらを作動させると、ある種の「ハイ落ち」したよ  うなトーンに変質する。「名作」とされるいくつかの機種では、この「ハイ落ち」感  を補正する工夫で凌いでいる。逆に言えば、レベルのみの操作であっても動かせ方次  第では「ハイ上げ」にもできる。・・・相当な熟練が必要ではあるが。  この件の詳細は、このマニュアルでは行わない。