ファイル管理                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010  概論に記述したように過去DATやMDまでの時代には、このファイル管理という概念は 希薄で、単にオリジナル(あるいはマスター)テープとコピーという区分しか無く、 重要な情報の保管とは、このオリジナルを情報の入った物体として如何に大切に保管す るか、という問題に集約されていた。無論、現在においても記録メディアの主流である フラッシュメモリーカードやハードディスク・ドライブにこの概念を適用し、物体とし ての管理として運用することも可能ではあるが、例えばフラッシュメモリーでは情報の 保全について明確に寿命が存在し、オリジナルの入れ物としてはいささか心もとない。 ハードディスクでは、オリジナルの入れ物としてはいささか容量が巨大すぎ、やはり 不便である。  むしろ問題はそのようなところにはなく、そのデータがオリジナルであろうとコピー であろうと、正常に作成されたものであればどちらがオリジナルであるか、またオリジ ナルはどのように優れているのか、物理的な明確な判断材料が希薄になったこと(つま り物理的には見分けがつかなくなったこと)が原因である。  かつてDATでは収められたデータが同一であったとしても、録音のコンディションは DATのメカのコンディションに左右され、例えば回転ヘッドの直径などという重要な要 素でさえ2種類存在し、オリジナルがオリジナルである価値はテープそのものに存在し ていたと言える。(悪く言えば互換性に難有りということか)  しかし現在においても情報ストリームの観点から眺めてみると、オリジナルにはオリ ジナルの価値を見出さなくてはならない。なぜなら、多くの音素材はほぼ例外なく、何 らかの加工を経て配分、保管、あるいは流通するからで、情報ストリームの観点からは、 この何らかの加工とは、すべての加工の種類において劣化とみなすことができるからで ある。  例えば「不要部分」があったとしよう。しかし不要であると判断するのはその時点で の判断であり、本当に不要かどうかは時間が経ってみなければわからないことが往々に してある。  かつて物体としてのテープが記録媒体でありオリジナルの価値を持っていた時代には、 物体としての保有スペースが物理的に大きく、その保管にはそれなりの出費が必要であ るという問題があった。しかし現在のようにカードやドライブという物体と、その中に 納められた情報との結びつきが薄れた現在では、それらの入れ物は一過的なものに過ぎ ず、オリジナルといえる情報、あるいはその入れ物や格納方法は使用者が定義しなけれ ばならない。  文章がやや難しくなってしまったが、要するにオリジナルを保管するのに、保管庫の 中にフラッシュメモリーカードやハードディスクドライブが並んでいることは、カッコ 悪いし使いにくいし、気付いたときには消滅していることもある、ので何とかしなけれ ばいけないということだ。また「大切」にするにはカタチのある対象が人間には必要だ ということでもある。  フィールドワークなどで録音した情報は最低でもノーマライズされることになるが (ノーマライズとS/N比.txtを参照)、ノーマライズされた音はもはやオリジナルでは なく、情報ストリーム的には劣化した情報ということになる。また、ポータブルの録音 機のいくつかはBWFという形式の.WAVファイルで、音情報以外に多くの付随情報を持って いるが、ノーマライズなどの加工を経るとこの情報は失われてしまう。この情報の中には 録音時に発生したサンプル落ち(音とび)などの情報も収められており、これらの情報 は現在有効利用できるソフトウェアは少ないものの、将来的には(現在でも)重要情報 であり、失われるには忍びない。(*ZOOM社の製品の例)  筆者が推奨している方法は、カードやドライブに入っているオリジナル情報は、原則 として「無加工」かつ「無削除」で光学メディア(DVD-RまたはCD-R)にそのまま記録し、 オリジナルとして整理保管するというものである。 重要な情報はしばしばその録音者の手を離れ、第三者(多くは業務スタジオの技術者) の手にわたり、同様にノーマライズなどの加工を施され使用される。業務スタジオの技 術者の立場で考えるなら、できるだけオリジナルの状態で受け取りたいと考える。なぜ ならスタジオの能力によって、そのオリジナルから引き出せる情報量は異なり、一般的 には個人スタジオの能力よりは高いからである。(そのはずなのだが、現実には問題の あるレベルのスタジオも相当あるのだとか)  筆者はaudacityの加工能力を十分に高く評価し、多くの業務スタジオと同等か、また はそれ以上であると考えているが、そのaudacityの加工能力そのものも進化しているの で、高価な業務スタジオに頼らないとしても、将来オリジナルと呼べる無加工データが 失われてると必ず後悔することは確実だからだ。(実際にver,1.3.7から1.3.8にバージョ ンアップされたときに、処理が変更された。また、将来再び改良されるだろう。) ここで標語を・・ 録音してきたらとりあえず削除などの作業をせず ***************************************  その日のうちに、そのままで・・・・オリジナルディスクを作成しよう!!! ***************************************    再生しやすいから、などとCDDAに変換して・・・など後回しでよい。  どんなに疲れていようと .wavのまま、audacityも通さず、その日のうちに、まるご と「ディスアットワンス」で光学メディアに焼きこむべし。トラック・アット・ワンス では正常に読み出しができなかったり、互換性に問題が生じることがある。ディスクは 現在十分に安価で、「ディスクが一杯にならないから・・」ディスクの空き部分が無駄に なるなどと考えない。  また長尺録音などで、2GB単位に分割され録音されたものを、接続復元したものは当然 2GBを超えるが、そのような大きなファイルをDVD-rに記録しようとするとUDF形式を指定 しなければならないが、UDF形式の場合OSによっては開くことができない(互換性の問題 として)場合があることを承知しておかねばならない。  オリジナルの提出の必要が発生しても、この真のオリジナルは死守しコピーを提出す る。オリジナルの保管は作成者の道義的義務なのである。  オリジナルを作成したら、それに付随するデータを必ず作成し、それも紙と鉛筆が最 も有力である。専用にノートを作るのも良いだろう。このオリジナルのディスクは増加 していくので単独でケースに収納するのも良いが、スピンドル・ケースに入れておくの も紛失を防ぐには有効な方法である。  オリジナルは無加工なのでファイル名も録音機が自動で作成したものであったりする が、ファイルを管理する上ではいささか不都合ではある。なぜなら、録音機にもよるが、 ファイル名が重複することで混乱が生じるからで、使用者によって、都合の良いファイ ル命名法を考え使用すると能率的である。わかりやすい名称のフォルダをつくり、その 中に入れるのも良い。できればフォルダ名も半角英数で、8文字に収めるとよりよい。  録音機によっては日付と時間がファイル名として使える機種もあるが、この設定は大 変便利である。  またCD-rやDVD-rを用いるのはファイル名やフォルダ名が重複してもオーバーライト してしまう危険性が無いと言う理由もある。実際に裁判などの証拠としても、オリジナ ルであることが立証できる−rのみ「証拠能力がある」とされるほどだ。