VSTプラグインとAudacity                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010 audacityは、VSTプラグインをある程度使用することができる。 プラグイン? DAW上で使用できるプラグインとは、DAWというフレームにもともとは備わっていない 機能を、追加することのできる機能ブロック(プログラム)そのものを指している。 追加することのできる機能は、各種のエフェクトが多いが、デジタル化以前のスタジオ では、主要機能以外の「アウトボード」と呼ばれるエフェクタに相当する。具体的には リバーブ、ディレー、イコライザー、フェーザー、フランジャー、からボコーダーの ようなものまでが含まれる。逆に主要機能であるミキサー、レコーダー、マイクプリア ンプなどは含まない。  またデジタルに固有の機能として、マイクロホン・シミュレーター、ギターアンプシ ミュレーター、操作や機能の複合であるマキシマイザーなどがプラグイン化されている。 大別すると、単なる機能拡張としてのプラグインと、歴史的に評判の良かったエフェク ター(HAからイコライザー、リミッター、コンプレッサなど)を再現したものなどが あるが、現在のテクノロジーの先端のひとつにインパルスレスポンスを解析・適用する、 サンプリングリバーブがある。理論が正しく、演算速度が十分に確保できるなら、この 技術は単にリバーブ(空間のシミュレーション)にとどまらず、あらゆるエフェクトの 標本化が可能になるはずだ。(詳細は後述) インターネット上には、多くの無償・有償のプラグインがあり、使用者は合法・非合法 にダウンロードし利用するようだが、本来これらの機能は非常に高価な機材を使用でき る環境にある、一握りの人たちが独占していたこともあり、大変安価に、またマシンパ ワーが許す限り、同時に何台でも所有(?)使用できることがDAWの普及を加速してい ると言える。大変貧乏性な話だ。  筆者もどういうわけか歴史的遺物であるこれらの名機を多数所有しているが、これ らのプラグインは確かにこれらの名機の特徴をうまくとらえているものもある。しかし 物理存在である実機とプラグインは明確に異なり、現状ではとても代用になるとは思え ないし、プラグインがあるから実機は売却しようかなどとは微塵も考えられない。 現在のプラグインは、インパルスレスポンスの適用以外では、回路シミュレーションを ベースにしているものが多い。例えばルパート・ニーブ氏の設計によるミキサーのプリ ・EQアンプとして著名な、#1073があるが(筆者は複数の#1073と#1099を所有)、 確かに現代のEQには無い魅力的なサウンドが「通すだけで」得られる。極論すれば、 EQのどのポジションをどの値にセットしても「使える」音に化けてしまう。同様の値を アナログデジタルを問わず、他のEQ上に再現しても、それほどの魅力のある音にはなら ない。実機ではどのパラメータを上げても下げても、NEVE特有のヌケが付加される。 多くのエンジニアがその謎を探るべく、様々な仮説をもとに検証が行なわれたが、結論 としては、ディスクリート(正負非対称)であること、コイル、トランスによる固有の 歪や位相特性にその原因があるらしいのだが、これらの部品は過去の遺物なのである。 その理由は製造の方法によって品質が大きくばらつき、同じ数値であっても得られる音 が大きく異なるからだ。  厳密に言えば、回路シミュレーションが正確に解析できるのは、低周波においては 「集中定数回路」についてであり、コイルやトランスのような「分布定数回路」では 何に着目するかで結果が変ってしまうという困った問題がある。部品が大きく互いに 干渉してしまうからだ!!  逆に言えば置き位置や温度、湿度の影響も受ける不安定な側面を持つが、このこと が時代から置き去りにされた原因であろう。コイルやトランスがあらたに脚光を浴びた のはスイッチングレギュレーター以降の話なのだが、その間には技術の不連続がある。  プラグインになれた方は、一度実機を使用してみると良い。妙薬であると同時に「毒」 であることもわかる筈だ。  そんな具合なので筆者は滅多なことでは実機もプラグインも使用しない。それを用い たパートが良くても、全体がバランス的にも音楽的にも良好でなければ話にならないし、 安易な利用は逃避であるとも言える。麻薬的な魅力もあるが、水戸黄門の印籠ほどの 威力は無い。当たり前のことが当たり前にできることが最良の結果に結びつくからだ。 サンプリングやシミュレーションの原理や発想はすばらしいし説得力がある。しかし 何をどのように標本化するか、という根源的問題からは逃れることはできない。客観的 であるはずなのに、そこには確かに「うまい」「下手」が存在する。  今、目の前にU-87が転がっているとしよう。テーブルの上に転がった状態でその特質 が得られるとは誰も思わないだろう。正しい立て位置にセットしたとしても、普段の管 理が悪ければ、やはり使い物にはならない。#1073が如何に魅力的であっても、2台も 3台も直列使用すれば、比例して損失も増大する。ニュートラルを見失ったところに 正解は無い。  audacityでVSTプラグインを使用するには、audacityのサイトにある「VST bridge」と いう.dllを必要とする。この.dllをaudacityのフォルダの中にある「Plug-Ins」フォル ダに入れて、各VSTプラグインも同じ「Plug-Ins」フォルダに入れると動作が可能にな るが、利用には根本的な問題がある。 audacityはオフライン処理のソフトであり、リアルタイムに操作パネルを操作しながら の使用ができない。また、いくつかのプラグインでは正常に動作しないものもあり、 どのプラグインが動作し、どれが動作できないかは実際に試してみるしかない。  しかし、audacityが完全浮動小数点動作できるようになった現在、いくつかの内蔵 エフェクトはそれに対応していない(オーバーレベルを起こす)が、VSTのものでは 対応しているものが多いため、作業が楽になる(後から「増幅」でレベルを正常化でき る)かもしれない。意外なことにスタインバーグのフレームがあのような処理なのに、 プラグインはものすごく真面目に処理しているものが多いことに驚く。 これらのプラグイン専用のサイトでは、VST(スタインバーグ用)と、DX(デジデザイ ン用)があるので、ダウンロードの際は注意する。VST_bridgeはVSTにしか対応しない。 <<<このテキストはプロフェッショナル版なので、安易なプラグイン使用で問題が 片付くとは説かない。なぜなら音楽や作品の評価とは出音がすべてであり、何を装備し 使用したかや、どれだけ投資したかとは無関係だからだ。貧乏性なコレクションには 釘を刺しておく!  DAWを選ぶ際に、プラグイン目的で選ぶことも多いとか。また作品によっては、 他人の作品に、プラグインを適用しただけなのに、それを自分の作品と豪語する者 にもしばしば出会うが、そのようなものはオリジナルとは認められないし、面白いと も思えない。多少それがウケたからといっても、やがて自分の首を絞めることになる だろうから>>>