MTR的録音                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010 決して私的にMTR録音を嫌っているわけではない。また、他のPCベースDAWと比べ、 audacityが格別にこの目的について劣っているわけでもない。実際に出力こそ2チャン ネルのみではあるが、入力は同時16トラック録音が現在のaudacity(ただしベータ版) には装備されている。しかし、これを完全に生かすためには相当なハードウェアへの投 資が必要であり、またその資金があるなら独立したMTRハードを購入可能で、しかも確実 にMTRハードの方がレコーダーとしては安定で、高品位と考えられる。・・・・・「スト リームとファイル」の項を参照。ストリーマー(録音再生機)とファイル操作機を一体 化するには、現在のデジタル技術はいまだ不十分というのが筆者の見解だ。 また、本テキストは電子音楽への応用を念頭に書かれているが、電子音楽の発想の中に はMTRは存在しない、というよりもMTRをスタジオ・コアに位置づけることが避けられて いる、 という問題もある。MTRの必然とは、音楽の創造性とは無関係の商業性(コストダウン) の中にしか見出せない(塩谷宏氏談)、ばかりか、そもそも音楽のために考案されたも のでもない、という事実もある。MTRの必然とは映画におけるサウンドトラック(台詞、 効果音、音楽など)制作であり、そもそも音楽の商業的側面の中にすら、MTRの必要性は 見出すことは困難だったものが、'60年代の後半ころに突如として音楽分野に導入され始 め、今日に至る。無論、それ以降の音楽制作において、あるいは音楽のスタイルの変容 は、このMTRを使用することを前提にアレンジ、楽団編成などが行われるようになった ことが原因の一つと言える。  注意しなければならないことは、音楽の中にMTRを欲するイマジネーションがあり、 その結果としての導入ではなく、他分野の資産を「便利そうだから」という理由だけで、 よく考えもせず導入したことだ。少なくとも、商業面(経営面)からは、その導入時に は、断固拒否の反応しかなかったことも付け加える必要がある。 多くの者はMTR録音の特質とは、「スコア」のようにトラックが用意され、そのトラック を同期運転することが「音楽」なのだと考えがちだが、電子音楽においては「最初から 同期しかしないこと」が旧世代(電子音楽以前の)音楽概念であり、システムが同期な のか、非同期なのか、また何にどのように同期なのかが自由に構想できなければ、電子 音楽の要求に応える事はできない。また、そのシステムの動作が、再現性を要求するも のなのか、再現性を否定するものなのかも選択できなければならない。 この観点からMTRを見ると、選択肢は少なく、どちらかといえば、「古典にのみ(ポッ プスにのみ)」対応ということになる。 *多くのPCベースMTRはさらに具合の悪いことに、一定以上の負荷が掛かると、この同 期や同時性についても動作が怪しくなる。audacityでも一定以上のトラックを同時再生 しようとすると、トラック間の同時性は無くなってしまう。ただし、audacityではレン ダリング・モード(オフラインの「ミックスして製作」や「ファイル出力」)を用いる ことで、同期・同時性は確保される。  電子音楽スタジオでは、多数の2トラックあるいはモノ・トラックのレコーダーが並ん でいるが、その一台一台は微妙に速度も違えば音色も一致しない。しかしそれらを統括 し秩序を与える存在として「作家」が位置しているのである。 如何にして秩序に至るかが重要なのであり、最初から同期していたのでは話にもならな いし創造性の入り込む余地も無い。また電子音楽では同期した系は1トラックと考える。 一見原始的に見えることも否定できないが、電子音楽は「自動オルガン」「自動ピアノ」 などの洗礼を受けた後に考案された概念なので、それらの利点を十分にわかった上での 選択といえる。一見無機質で、「非人間的」な外観を持つ作品が多いが、正しく制作さ れた作品は相当に「人間的」なのである。 audacityも基本的にはDAWなので、同期・同時性を標榜するが、各トラックは任意のテ ープ速度(サンプリング周波数)が設定可能で、要求されるなら、複数のaudacityを起 動し動作させることが可能(バージョンにより複数起動できない)なので、電子音楽の 要求には、相当なレベルで対応可能だ。(ただしaudacityは「オフライン処理」に的を 絞ったソフトなので、オンラインで複数audacityを同時使用することにどれほどの意味 があるかは使用者次第だ)   <専用機との併用>  他項でもフラッシュメモリー録音機との連携について解説している(「ポータブルレコ ーダーとの連携」の項を参照)が、その中で触れたZOOM社R16というモデルは、能力、 開発コンセプト、価格において、audacityとの組み合わせと得られる結果が良好な1台 と言える。またこの機種は基本性能、信頼性でも群を抜くものがあり、柔軟な能力を 発揮すると思われる(「他文、「フレッシュメモリーレコーダー考」を参照)。  実際に筆者のグループで定評があるのはAlesis社HD24で、R16に関しては現場評価が 現在のところ登場から日が浅いため十分ではないが、HD24には無い機動性と振動、電 源耐性があることから、確実に評価を伸ばしつつある。  ここでは利点と問題点をいくつか挙げる。 ☆R16とaudacity連携の利点 ○打てば響く操作性  作業に対する待ち時間は、一部の例外的作業(後述)をのぞき、ほとんど無く、  作業についての熟練のみで、軽快に作業が可能。  ロケーターも表示画面こそ地味だが、非常に実戦的だ。(ロケートポイントの時間位  置を通過すると、表示も次のポイントに自動的に変るので、位置表示としても活用で  きる)  また起動の素早さも特筆に価し、平均8秒程度で使用可能となる。 ○等価内部構成がインライン型  大規模録音スタジオ同様、ミキサー部分とレコーダー部分が、SSL社の製品などでおな  じみのインライン構成になっているので、信号の流れが把握しやすく、ループが生じ  にくく、エフェクターとの関係を掌握しやすい。(作業ミスを減らすことが出来る)  また2系統あるエフェクトリターンは「一発カット」の機能を持ち、不要なルーティ  ングや操作を省略できる。 ○柔軟かつ安定したレコーダー部分  安定した、同時8トラック録音、同時16トラック再生、または2台同期させることで、  その2倍のトラック数が確保できる。(ただし同期といってもサンプル単位の同期で  はなく、2台の間では完全なコヒーレントは得られない・・・がキャリブレーション  によって曲ごとに調整は可能) ○安定かつ極めて短いレーテンシー  コンスタントに58サンプルの遅れしかない。PCなどのマシンコンディションに左右さ  れない安定性がある。 ○PCと接続しっぱなしでも、連結と切り離しが容易にできる。 ○メディアのホットスワップが可能。 ☆ここまで列記したことだけで十分な採用価値があると言える。  問題点 △本体のみでは一切の編集作業が出来ない。(最大の利点でもある)   故にすべての編集作業や加工は、PC側で行うことになるが、後述する方法以外では  原則としてR16内(SDカード)のデータを、一旦PC側のハードディスクなどに送り、  そこで処理を行い、再びR16に戻さなければならない。 △一部の例外的作業・・・新たにトラックを増やす場合、その増やしたトラックの  終端部分にのみ録音を行うと、録音を終了した時点で「無音埋め尽くし作業」に  自動的に入り、しばらく作業ができなくなる。その曲(プロジェクト)が短ければ  短時間で終了するのだが。(また高速度のSDカードを使用していればそれなりに  速い・・この問題があるので、最低、クラス6以上のカードを推奨)  しかしこの問題は運用技術で十分にカバーできる問題だ。 △現在R16のレコーダーモードは、サンプリング周波数44.1kHzのみ対応している。  しかし開発側によれば、48KHzにも対応可能なのだそうで、リクエストや要求が多け  ればファームアップ時に対応するらしい。リクエストをしよう!!  ただし、ライブラリの問題か、その場合48kHz時にはエフェクターに使用制限が出る  らしい。(48kHz対応のメリットは他項を参照) △速度(ピッチあるいはサンプリング周波数)の微調整ができない。 <<R16との有機的連携・・・ファイルの共有>> ☆この手法は、メーカーの保障があるわけではない上、操作手順を誤るとデータクラッ シュする可能性もある、多少綱渡りな方法ではある。 しかし、極めて能率的作業が可能となる上、録音品質については単体専用機の性能が 容易に得られるという、代えがたい利点を持つ。 ☆筆者の周辺の動作環境(WindowsXP pro SP1、2、3)でのみ動作確認をしています。 異なるOSの場合、どのような挙動になるかの検証やシミュレーションは十分に行えて いません。手法として採用する場合は、個人の責任において実施してください。  危険は「手順の誤り」と「ファイル形式指定の誤り」が主要なものなので、しっかり と練習すれば、十分に危険回避可能である。 □R16の特徴として、ケーブルの接続しなおし無しで、R16側から自由に接続と切断を ボタン操作によって行うことが出来ることがあげられる(H4nも同様)。  この特徴を利用することで、R16の内部のSDカードにある音声データファイルを USB経由で、直接audacityから開き加工処理、編集処理などを行おうというものだ。  具体的には次のようになる。 1)audacityを起動し、プロジェクト・サンプリング周波数を44.1KHzに設定する。 2)R16を起動しUSB接続し、R16の動作モードをカードリーダモードにする。  *「USB」→「→」→「(CARD READER)ENTER」→「ENTER」 3)あらかじめ作ったガイドを使用する場合、PCのエクスプローラーで、R16の目的の  プロジェクトフォルダのAUDIOフォルダに、使用するガイドファイルをコピーしてお  く。(無論ガイドトラックのフォーマットは、Fs=44.1kHz、16bitまたは24bitに限ら  れ、それ以外のフォーマットの場合は、Fs=44.1KHz、16bitまたは24bitに変換してお  く。変換は、audacityの機能を用いてもよいし、さらに高品位を求める場合は、推  奨の外部プログラムを使用する。ステレオまたはモノトラック) 4)R16をレコーダーモードに戻す。  *「USB」→「(Terminate)ENTER」 5)R16で最初の録音を行う。無論複数トラックでも可能。R16のみで作業続行できる  間は、そのまま続行する。 6)編集や加工が必要になったら、R16をレコーダーモードからカードリーダ・モード  に移行する。  *「USB」→「→」→「(CARD READER)ENTER」→「ENTER」 7)audacity(あらかじめ開いておくか、開いてなければ、ここで起動)をアクティブ  にし、エクスプローラからR16の目的のフォルダ(「PRJ00x」→「AUDIO」)を開き、  そこからaudacityにドロップしファイルを開く。 安全)audacityの設定を、audacityのプロジェクトにすべてのファイルをコピーし作  業を行う設定にしておけば、後述する危険を回避できる。しかしこの設定にすると  ファイルコピーのための時間が必要となるので、それなりに作業効率は低下する。 8)audacityで必要な作業を行い、その結果を上書きするか、別ファイルとして、  別名で同じフォルダへ戻す。(audacityで書き出しする際、サンプリング周波数、ビ  ット深度には十分注意する) 9)R16をレコーダーモードに戻す。*「USB」→「(Terminate)ENTER」  上書きの場合はそのまま、別名で書き出しした場合はトラックの割付(R16のマニュ  アルを参照)をし、 10)録音作業を続行。 **カードに十分な容量があれば(ポップスの場合2〜4GBで十分と言えよう。が、残量 には十分注意する)一般的な作品で、40〜50のトラックは何等問題なくR16上で扱う ことができるだろう。逆に人間の頭脳が多数のトラックに耐えられないことの方が問題 なので、インプレッションや評価のメモをこまめに残すことを強く推奨。 11)audacityでの作業が必要になったら、6)に戻る。 要は都合の良いときだけ、audacityの外付けドライブとしてR16のカードリーダ・モード を使用するというものだ。ただその外付けドライブには、強力な録音再生機としての 機能が付いている・・・・。 12)もしも長い休憩や、翌日に作業を持ち越す場合、audacityのプロジェクトファイ  ルを作成することもできるが、その場合は先にR16がカードリーダ・モードになってい  なければならない。  またPCのスタンバイや休止モードも利用できる。 ☆危険を回避する ★もっとも危険なのは、R16がカードリーダモードになっていないときに、audacityが  アクティブで、再生などの動作を行おうとしたときに、audacityは確実に操作不能  に陥り(閉じるしかない)、そのときにテンポラリに作成されていた「仮プロジェクト  ファイル」は大破することだ。(次回audacityを起動したときに「修復するかどうか」  をたずねられるので、「修復しない」を選択する) ★R16がカードリーダモードになっていないときに、他のUSBデバイスをPCに接続し、  ドライブ名(アルファベット)が変更された場合、同上の症状。 ★R16側でファイル名を変えたり、追加で録音延長した場合も同様にaudacityパニック  が発生する(操作不能) **理由は簡単だ。  audacityは、非アクティブのときや、再生や加工をしていないとき、読み込みファイ ルのアロケーション(所在場所)や状態に無関心で、その性質を利用した手法がこの 「共有」なのだが、それゆえaudacityが目を放した隙に変更や消失があると、深刻な エラーとなる。(audacity PANICと呼ぼう!・・・ごめんなさい) **損害の範囲と規模  基本的にはaudacityが操作不能に陥るが、R16側のファイルに被害が及ぶことは稀だ。 その意味では安全性は高いとは言える。 しかしaudacityにとってはたまったものではなく、不正なテンポラリファイルが残され た状態になるので、audacity PANICに陥ったら、即座に終了し、再起動し不正テンポラ リファイルを消去する。  R16が切り離され、先に終了してしまっているときには、audacityは一切の動作をさ せずにそのままXで終了(変更を保存しない)。 ☆対策 ○audacityを操作する場合は、必ずR16の動作モードを確認し(とくに再生時)、安全  確認した上でボタンを押す。  また、audacityの操作を行わない場合、最小化しておくなども有効。 ○R16側では基本的にトラックを増加する方向でしか操作しない。audacityでは操作や  編集に徹する。結果は必ずR16に書き戻す。 ○変更などを加えた場合、それがR16側かaudacity側かを問わず、メモをつくり、矛盾  が生じないようにする。 ◎変更を加える場合、もとのファイルではなくコピーしたファイル上に行い、作業に  使用したファイル全てを残し、「消去」を行わないようにする。 ◎R16側で、パンチインアウトなどで修正したトラックは、audacityで再生や加工した  りする前に、Xでパネル上から抹消して、再度読み込み直す。(ただしUNDOなどを  してそのトラック抹消まで遡ると、同様にパニックになるので、注意する。 *作業手順の把握が出来なくなってきた場合、一旦audacityを終了し再起動するか、 audacity には履歴に抹消機能があるため、抹消に関する部分の履歴を抹消する。 (「ビュー(表示)」→「履歴(遍歴)」で操作画面が現れるので、選んで抹消) ◎R16がカードリーダ・モードになっていないときに、別のUSBデバイスを接続しない。  接続の必要があるときは、R16がカードリーダ・モードになっていることを確認する。 ○audacityに同時にはあまり多くのファイルを読み込まない。録音中、主役はあくまで 録音機にある。 @このような接続を「ハイリスク」と感じる読者は多いかと思うが、本来の録音スタジ オの機器の危険性はその何倍ものものだった。その当時の感覚で言えば、「確実で安全」 な範囲と断言できる。この程度を危険と言っていては、テープマシンの同期運転はおろ か、ハサミを入れることなど不可能だろう。本書はプロフェッショナル・マニュアルで ある。 @録音制作において主役は録音であり、品質、操作性、レーテンシー、安全性において、 DAWは専用機に及ぶものではない。ファイル操作や加工などの処理はあくまで2次的作業 で、それに頼り切るようでは正常な作品とは言えないだろう(実際にプラグインに 頼り切っている者が多いことはよくわかっているが)。加工に主体があると言うなら、 狭義の電子音楽や映画の先端分野で行われていることをもっと学び、また自ら開拓しな ければ、、、その姿勢くらいは必要だろう。 @この組み合わせは強力なのだが、R16側の対応がさらに進めば、より快適になるだろ う。とりあえず不便なのは、R16のトラック割付がPC側から行えないことなのだ。 パッチ表のような形式でよいのだが、そのためにはR16が作成する「PROJxxx」フォルダ にある「PRJDATA.ZDT」ファイルにあるバイナリ記述されたパッチリストを書き換える 必要がある。どなたかエディターを作ってください!!  もし実用に耐えるエディタを作ってもらえるなら、筆者特別選定のR16専用バッグを 進呈の上、本サイトにてリリースさせていただきます!! ☆☆同様の機能を持つH4nでも同様の作業は可能である。 ○いくつかの凡例  ☆R16で演奏の録音作業をしているときに、audacityで行う作業のうち最も頻度の高  いもののひとつにタイムアライメント(タイミング調整)がある。  例えば、カラオケに歌をのせる場合、そのまま正確に歌えているはずなのに、「今  ひとつノリが悪い」ということがしばしばある。   このような場合は、そのパートの「タイムオフセット(アライメント調整)」を行っ  てみよう。要はその「ノリの悪い」パートを、時間軸上で僅かに進めるだけなのだ。  audacity ではタイムシフトツールを用いて、左右にスライドさせる(進めるなら左)  だけである。  一般的なポップスでは、程度にもよるが、5〜20ms程度で解消することが多い。   問題は「そうすれば良い」のではなく「こうなってなければならない」という判断  能力で、当然ある場所でよくすると、別のところでは進みすぎるということが起きる。  要は「駆け引き」なのである。歌に限らず、各楽器のソロパートや、ドラムセットと  ベースの間にも同様の現象がある。  すべてのパートを前に出したら・・・・・何の意味も無い!だから駆け引きなのだ。   audacityのタイムシフトツールでシフトすることは容易いと思う。「編集」の項の  タイムシフトツールを参照。  問題は、シフトしてそのままR16に戻しても、効果が固定されていない場合があること  だ。例えば左に動かせても、0秒から左にデータがはみ出したまま、あるいは右に動  かした場合、頭に空白(無音ではない)ができるが、そのままそのトラックを書き出  しても、その操作は無効(勝手に頭揃えされてしまう)なのである。   これを固定するには「破壊編集」を行わなければならないのだが、簡単にはそのト  ラックを選択(トラック左側のビット数の表示あたり、をクリック)し、  「ミックスして作成」を実行し、固定化したものをR16の内部SDカードに書き込む。  また書き込む場合も、上書きではなく別名で書き出しにすることで、安全性が高まる。  (かならずメモやノートを付けよう)何のための大容量化なのか、それを使いこなす  こととはどういうことなのかよく考えよう。節約は無意味だ。  書き戻してからR16のトラック割付を変更する。 □この手法とUSBオーディオインタフェースモードの比較(得失)  これらの機材(R16、H4n)には、このような面倒な方法を用いなくても、便利な USBオーディオインタフェースモードがあるではないか、という指摘がある。 また、このモードは44.1KHzだけでなく、96KHzサンプリングにも対応し、より高精度 なのではないか、と考えることも当然かもしれない。  しかし、様々な条件下や、詳細な解析を行ってみるとスペックからは想像もできない 問題をかかえていることが確認できる。  ひとえに「同期はそう簡単ではない」ということに尽きるのだが、激しいジッタや、 サンプル落ち、PC側のスレッド制限など、到底安定した動作とは言い難い結果が観測で きる場合が多々ある。厳しく言えばロックアウト寸前のケースもある。何より明確に 音の品質が異なることが如実に物語っている。ZOOM社の製品だけでなく、他社製品でも 正常にドライバがインストールされていても、(本書で推奨のUA1-ex、UA1-gなどでも) ロックアウト(「プチプチ」音が混入したり「コロコロ」音変調)あるいはその寸前のこ とはしばしばある。(1KHz正弦波信号を用いると、耳でも判別しやすい)たちが悪いの は、動作環境や他のインストールによって影響を受けやすいことだ。  この測定方法や評価などについては「測定と自己校正」の項を参照。 上記の手法では多少の面倒はあっても、このような問題から完全に解放される。 このようなスタイルが一般化することが、本質的な改善の近道と思い公開する。  また、ドライバ・ソフトのインストールを行う際は、自分のPCにそのドライバの保障 するOSが入っているかどうかも確認しなければならない。筆者もWindows XP SP2以上 を条件とするドライバを、「まあ大丈夫だろう」と勝手に判断し、SP1にインストール し、その結果OSのsystem32の中の重要なファイルが上書きされ、その結果カーネルパニ ックで落ち、2度と起動できなくなってしまった。幸いシステム・アーカイバーで保護し ていたので、即座に復旧はできたが、気をつけねばならない。