HD24 FSTへの入出力                         (C)Y.Utsunomia 2008-2010  録音再生そのものに関して、HD24はもっとも高品位で安定した代表的専用機であると 言える。audacityの編集加工の機能との組み合わせは非常に強力で、HD24の品位と安定 性にaudacityの機能を追加することになる。 また、audacityとHD24の組み合わせでは事実上のファイルサイズの上限が無く、各トラ ック8GB以上にもなる長尺データを分割することなく、録音・編集・再生することができ る。(実際にはHD24の内部タイムコード上限から、23時間が上限となり、そのときに出 力されるファイルサイズは、各トラック約11.5GBになる・・またさらに長時間では、HD 24を複数台使用したリレー録音を行い、audacity上で接続することも容易) このため業務録音の事業所でもHD24の使用例を良く見かけるが、その後の処理に苦労す るようだが、audacityの活用は問題解決につながるだろう。  ファイルの入出力はFST(ファイアーポート)を経由し.wavでの伝送となる。 ☆LANポートを用いたHD24との接続も可能ではあるが、速度規格が10BASE-Tと大変遅く、 およそ実用的とは言えない。 ☆もう一つのリアルタイム伝送として、A-datオプチカル接続でPCとやりとりする方法が あるが、PC側に高品位のインターフェース(RME9652など)を装備する必要がある。 しかし、HD24をオーディオインターフェースのごとく、ターミナル化して安定動作させ るためには、明確に親時計(マスター・ワードクロック)が必要で、その設備が無い場 合、動作モードにより「サンプル落ち」などの問題が生じる。ただしHD24→RME9652の 一方通行のみで、クロックゲンがHDの場合は問題は生じにくい。 ★現在、フリーウェアとしてFST toolsというUSBポートを利用したFSTのようなソフトウ ェアがあるが、開発途上であり、いささか動作が不安定で、FST(HD24)ドライブからPCへ の読み込みとデータ・サルベージ(HD24で録音中に電源が落ちてファイル破損したよう な場合の)は、おおむね良好に作業できるようになったようだが、FSTドライブへの書 き込みはアクセス中のソングファイルにダメージを与えることがあるようなので、注意 する必要がある。(FSTドライブへ書き込みをする場合は、必ずHD24本体でコピーを作成 し、そのコピーに書き込むくらいの用心が必要だ。 ★また、このソフトにはHD24長尺録音ファイルの、複数のトラックを直接分割読み出し する機能がある。 (しかしこのソフトで再生するHD24ドライブの音(PCでの再生)の良さは一体どうした  ことだろう・・)  この作業を行うには、いくつかの設定のポイントがある。(以下はファイヤポートに ついての解説) ○ HD24に入出力できるファイルは.wav (AIFFも可)44.1kHz fs または48kHz fs 24bit のモノ(複数可)のデータのみである。HD24XRでは88.2kHz,96kHzも可能。 ☆ audacityにステレオトラックを読み込み2つのモノ・トラックを作成する場合、ト  ラック左のプルダウンメニューから、「ステレオトラックの分離」を実行すると2つ  のトラックが現れるが、この2つのトラックは、この段階で書き出すと2つのステレ  オトラックが作成されてしまう。(つまりHD24では読み込めない)  「ステレオトラックの分離」に続き、ふたたびプルダウンメニューから、2つのトラ  ックともにMONOを選ぶことで、初めて読み込み可能となることに注意。 <<追記>>  ver,1.3.8以降では、各トラックのプルダウンメニューに「ステレオからモノラルへ」  のコマンドが追加された。このコマンドを実行すると、上記のように2つのステレオ  トラックではなく、2つのモノトラックに分離され、ファイル出力すればそのまま  HD24で読み込める(ただしビット深度は16または24bitの必要がある)。 ○ ファイル形式は「その他の非圧縮ファイル」「wav signed24bit PCM」が適合する   形式である。(16bitも可能) ☆ FST connectを用いてHD24用ドライブにインポートする場合、HD24のドライブに作  成したsong のサンプリング周波数と、audacityが書き出したサンプリング周波数は  一致しなければ読み込むことはできない。 ☆☆ FST connectを用いてHD24ドライブにインポートする場合、ファイル名に記され  た数値のようにHD24のトラックに配置されるため、あらかじめファイル名をチェック  する必要がある。 (必要ならインポート前にファイル名を、読み込みトラックに合  わせた数字を含む形式に変更する)    ファイル名末尾(拡張子の前)にトラック番号が入るようにファイル出力を行う(  ・・・複数ファイルを書き出しに、そのオプションがある)か、またはファイル出力  後にリネームし、トラック番号を振る。 ○ HD24ドライブ(FST)からPCへファイルエキスポートする場合、トラックの指定の  方法により、フラグメンテーション具合が変化し、結果的にaudacityやその他のDAW  での再生状態が変化する場合がある。   例えばHD24の24トラック録音のうち必要トラックのみをエキスポートするか、  24トラック全てを一括エキスポートするかで、PC側に作成されるファイルの断片化が  変化するのだが、一括エキスポートの場合、すべてのトラックはHD24ドライブ上の  データのように、各トラックが市松模様に交互に順番に並ぶ。個別トラックの場合は  各トラックがそれぞれ独立したデータチャンクの塊で並ぶ。この両者で、再生音が  変化する(全トラックをDAWに読み込み再生した場合)と言う意見もあるが、確かに一  括エキスポートした場合の方がヘッドーシークマージンは上がるようだ。この事情は  HD24上の16、8、6、2のそれぞれのソング定義でも同様だ。   確実にいえることは個別にエキスポートする場合よりも、一括エキスポートしたほ  うが、転送時間は確実に速い。   別項で登場のR16というフラッシュメモリーMTRがあるが、このあたりの事情はさら  におもしろく、この機種の場合一括録音したトラック分のみ市松模様に並ぶ。「だか  らどうした?」と言ってしまえばそれまでなのだが・・。フラッシュメモリー媒体で  は、ハードディスクのような断片化による音への影響は、あまりみられないようだ。  (というよりもともとシャープさに欠けるとも・・) ★★ FST connectを用いてHD24ドライブにインポートする場合、目的のファイルに至  るフォルダ名やファイル名に日本語が入ると、正常に作業が行われない。すべて英数  半角を用いる。また、あまり深いフォルダに置かない方がよい。(せいぜい2階層程度  にとどめる)  可 d:\2nd take\out 以下 kick1.wav sn2.wav hh3.wav ・・・・  不可 d:\2セッション¥出力  以下 キック1.wav スネア2.wav オーバL.wav  ・・ HD24とaudacityを使い分けることの利点(ストリームとファイルの項参照)  そもそも音楽や音情報はファイルではなくストリームである。 ファイルとストリームは取り扱う情報としての形式が異なる。結果としての音楽再生は 一見同じに見えるが、ファイルは情報の起点、終点、サイズが確定しているものを指し、 ストリームはどれくらいの流れ(単位時間当たりの情報量)であるか、の概念しかない。  ファイルにおいては起点、終点、サイズによって規定される情報の塊であり、ファイ ルそのものからは時間軸が失われている(ファイルの定義上、情報を端から読み出すこ とで時間軸相当の情報を持つとされているが)が、このファイル化により事務用のコン ピュータで扱うことができるようになるのである。ファイル化することで各種の事務用 の断片化に耐えられるようにはなるが、だからといって時間軸の連続性や滑らかさが得 られるかというと、その補償があるわけではない。  対してストリームとは滑らかに連続した時間の流れそのものが情報なのであり、アナ ログ、デジタルを問わず、入力された情報に対して記録媒体を一定量ずつ割り当て記録 再生を行う。アナログメディアのほとんど、レコード盤、アナログテープや、デジタル ではDAT、CD、などがこれにあたる。 (注)これらにはワウ・フラッターや固有のジッタと呼ばれる、時間軸上のゆらぎがあ り、そのゆらぎが情報にとって有害であるとされるが、そのゆらぎのいくつかは「再現 されるゆらぎ」であり、この場合再現されるゆらぎは同様に「有効な情報」である。 ところが不用意にデジタル伝送を行い、再現されるゆらぎまで取り除いてしまうと、重 大な情報損失が生じる(DATでオリジナル録音を行い、CDライターへSPDIF伝送を行い、 CD化したような場合・・それぞれ固有の再現されるジッタを持つが、再現されないまま メディア変換されてしまうため、特有の損失を伴う)。 この再現されるゆらぎを固定する最善の方法は、一度アナログに戻すことだが、この 一見リサンプルを伴う原始的な手法は、その認識のある著名マスタリングスタジオでも 標準的作業工程として、現在でも用いられている。  ストリームでは記録媒体の安定走行が情報に影響を与えるが、断片化がないため時間 軸の滑らかさや連続性はある程度自動的に確保され、操作に対する反応も早い。ファイ ルでは時間軸の滑らかさや連続性を得るために、十分な大きさのバッファ・メモリーを 用意し、メモリー上で情報の再配列を行わなければ、ファイル化や断片化で一度失われ た連続性を取り戻すことができない。  情報理論的には、このバッファメモリーがバッファーアンダーランを起こさなければ (バッファーが空になったり、溢れたりしなければ)、元の時間軸情報は再現されるの だが、現実のハード製品やソフトウェアを見る限り、そう簡単には時間軸連続性や滑ら かさは回復できないようである(録音・再生などを経る場合。ファイルそのものの安定 性のことではない)。CDのフォーマットを策定するときに、従来のアナログメディアの ワウ・フラッターと比べデジタルの時間精度を論じたことに問題がある。ワウ・フラッ ターの一般的数値はデジタル・オーディオの時間精度と比べ桁違いに悪いが、両者には 含まれる時間軸の揺らぎの成分がまったく異なっていることを見落としている。つまり アナログメディアではゆっくりとした時間軸揺らぎであるワウ・フラッターが見られる が、高い周波数成分の揺らぎはほとんど含まれない。これは、メディアであるレコード 盤やテープがそれなりの重量を持ち、その重量が慣性として働き、走行系全体としては 何重ものLPFが存在することで、高い成分の時間軸揺らぎが生じないと考えられる。  デジタルでは事情がまったく異なり、CDやDATなどでもメディアから読み取られた情 報は一旦バッファー・メモリーに取り込まれ、一定間隔(ワードクロック)に時間軸整 列して出力される。 注意しなければならないことは、バッファーへの入力は時間軸上不安定な揺らぎを持つ が、バッファーからの出力は一定間隔で整列しているから高品位の再生ができるという 短絡的な発想なのであるが、この「一定間隔」が曲者で、確かにアナログに比べるとき わめて小さい数値に収めることができるのであるが、クロックやバッファーアクセスの 方法によっては高い成分の時間軸揺らぎが含まれ、明確にそのようなセットは低品位の 音しか得られないのである。  この高い成分の時間軸揺らぎのことをジッターと呼ぶが、某音楽・音響企業の研究に よれば、10のマイナス8乗程度であっても人間の耳に「劣化」として認識されるのだそ うである。  この時間軸揺らぎについて十分な研究があってデジタルに移行したわけでないことは 明白である。 揺らぎばかりか、連続性や時間軸の滑らかさについての研究など、現状では無いにひと しいが、両者を一対比較すると明確に有意差が見られるので、おそらくさらに未知の要 因も含まれているものと思われる。  HD24で用いられているハード・ソフトはこの点に着目しているようで、名称も「File- Stream-Technology:FST」で、汎用のハード・ディスク・ドライブを記録メディアとし て用いているにもかかわらず、非断片化記録・再生するシステムである。  ハードディスクを用いる以上、録音開始セクター、録音終始セクターなどの管理情報 は存在するが、原則として断片化を行わず、ハードディスク上の情報はファイルでもス トリームでもなくその中間にあたる形式で記録されている。ハードディスク上の情報そ のものの格納位置が、セクター単位で連続しているとはいえ、録音や再生そのものが始 まってしまうと断片化システムではつきものの管理情報の拘束を受けず(つまりレコー ド盤やテープのように)動作し、またそのためバッファーの大きさも極限的に小さくて すむのである。  実際にファイルとして扱うことができるようになるのは、PC上にエクスポートした後 の話で、FSTドライブ上ではファイルとしての要件すら備えていない。このことは録音開 始点〜数フレーム分で編集が正常にできないことからも検証できる。(HD24本体では、 先頭から1秒以下の部分での頭揃え処理を避けなければならない・・・)  結論から言えば録音・再生には非断片化のストリーム・マシンに分があり(音品質、 信頼性ともに)、編集や操作にはファイル入出力、オフライン処理の断片化システムに 分があると言える。 同時に一つのパッケージでその両方を両立しているシステムは存在しない。  冒頭で触れた「FST-tools」のプロジェクトは、HD24のFSTフォーマットをPC上で実現 することを目標としているようなので期待しているが、安定するにはまだ相当の時間が 必要なようだ。