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タイトル : (  )
名義 : JON&UTSUNOMIA
出版社 :HÖUREN
出版コード : MIMI-004
構成 : 全1曲/20区分

出版社HÖURENの企画物で、1998年に発表。 名義にウツノミアの名称があるが、純然たるウツノミアのプロデュース作品。JONの歌は破壊された童謡あるいは幼児の即興鼻唄様であるが、そのフレーズの出典の多くはフランク・ザッパやアフターディナーなどの高度な音楽技法に裏打ちされたものである。

JONとは、その演者である上原聖子のイマジネーション上の仮想犬であり、フレーズの壊れ具合は綿密に予定、計算されたものであることを聴き逃してはならない。つまりJONにおいて、この何とも不安定な演奏と歌唱は何度でも繰り返し再現出来る安定したものであり、それゆえ筆者の採用したサイ・オ・バイノーラル方式による録音制作が可能であったのである。

このサイ・オ・バイノーラルとは筆者の仮説による、ヒトの空間認識能の逆応用法で、従来のバイノーラルに見られる前方定位の虚弱さや空間再現性の不安定さは大きく解消され、いわば音による仮想現実を実現する手法である。具体的にはペア・マイクによるステレオ録音に、テープスプライシングを組み合わせた原始的な編集方法を採用してはいるが、その録音時の特別な空間セッティングと仮説に根拠を持つ編集ポイントの決定、デジタル波形編集をも凌ぐ高度な手切り編集により、この作品は現実のものとなっている。

これらの技法の導入は演奏に於ける「場」の概念や、音楽に於ける空間と時間の、録音という未知の概念への新たな応用や、その謎解きを目的とした野心的なものである。実際に現場録音後の編集には2年の歳月を費やし、本編以外に2つのプロトモデルを作成、のべ編集個所は1000個所を越えている。評論やコメントは多数存在し、発表後4年を経過した現在もそれらは増加しつつある。

2002年 宇都宮 泰